公立図書館 開かれた「知の宝庫」に - 朝日新聞(2019年7月30日)

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静けさの中で本を読み、学び、調べる場所。図書館といえば、そんな単色の風景を思い浮かべることが多いだろう。
折からの財政難や人口減といった問題も抱えている。だがその中でも、創意工夫で彩り豊かに転じた図書館も少なくない。
最近の試みの一つは、施設の複合化だ。図書館を狭くとらえず、カフェ、子どもの遊び場、生涯学習スペースなどを併設する自治体が増えてきた。
神奈川県大和市の複合施設ができたのは約3年前。それまでの市立図書館と比べると10倍超の年間300万人が集まる。
ふつうの市民が講師になる講座が連日開かれる。「五街道踏破/東海道五十三次」「昭和30年代の大和」「ワインの楽しみ方」……。健康器具が置かれ、ラウンジも充実し、売りは「おひとりさまの居場所」だ。
人々の様々な課題の解決を支援する取り組みも目立つ。
先進地の一つが鳥取県だ。医療・健康関連の相談は、認知症予防の音読講座などとともに、利用が多い。就業・起業についても高額な資料をそろえ、外国との取引や新商品の開発に成功した人らを表彰する。
新たな役割に挑む図書館の実情や規模は多様だ。共通するのは、「知の宝庫」をより多くの人が憩い、出会い、つながる場として開くこと。先が見えない時代を生き抜く力に役立ててもらおう、との方向性である。
もっとも、全国約3300ある公立図書館の基盤は厳しい。日本図書館協会によると、この20年、図書館数は増えたのに、1館あたりの本や雑誌などの資料購入費は4割近く減り、専任の司書も半減している。
運営の問題も横たわる。民間業者が担い手となる指定管理者制度は全館の15%を超すまでに増えた一方、トラブルもあり、直営に戻る例もある。この6月の図書館法の改正で、所管も教育委員会から首長部局に移せることになったが、政治的な中立性などの点で懸念の声もある。
教育施設である図書館の意義を再確認することは重要だ。人々のニーズに目配りしながら、数だけで測れない多様な価値観をどう守り、知る権利を保障するか。行政トップはぜひ理念と覚悟を語ってもらいたい。
市民の側も、わが町の図書館づくりに目を向けたい。
全国で公開が広がる映画「ニューヨーク公共図書館」は、図書館が人種や宗教、性別、障害の有無を超えて、あらゆる人々の利用を歓迎する「民主主義の柱」だと伝えている。
公共とは何か。その問いを考え続けることは、何冊もの本を読み進んでいく喜びにも似た、創造的な機会になるだろう。

 


『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』予告編