(筆洗)反対は敵ではない - 東京新聞(2019年7月22日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2019072202000192.html
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男が言った。「君はいつも僕に反対するね」。もう一人の男が答えた。「もし僕が反対しなかったら二人とも間違ってしまうからね」。オリジナルは不明だが、古くからあるジョークなのだろう。
二人とも間違ってしまうからと答えた男に金子光晴の若き日の詩を重ねたくなる。<なにしに生まれてきたと問はるれば、躊躇(ちゅうちょ)なく答へよう。反対しにと><僕は信じる。反対こそ、人生で/唯(ただ)一つ立派なことだと。反対こそ、生きていることだ。反対こそ、じぶんをつかむことだ>。反対には意味がある。反対しなければ生まれぬ議論がある。
安倍さんは大型国政選挙六連勝という。昨日の参院選である。勝利にわく自民、公明の与党だろうが、肝に銘じるべきは与党以外を選択した、「反対」の票である。
ジョークをもう一度読み返してみる。いつも反対する男は相手が憎くて反対しているわけではない。二人の行く末を心配し、別の選択をしている。
与党に入れなかった票。それは自分が反対しなかったら日本全体が間違った方向へ進んでしまうのではないかと判断した世の中の声である。与党とは考え方は違っても日本の将来を心配している声である。
その声にどう相対していくか。見たいのは反対にも耳を傾け、議論を深める懐深い与党の姿である。その姿勢は日本の政治を穏やかにし、分厚くもするだろう。反対は敵ではない。