岐阜中3転落死 いじめ情報抱え込むな - 東京新聞(2019年7月13日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019071302000160.html
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岐阜市の中学三年男子生徒がマンションから転落死した問題は、いじめ情報を校内で共有できず最悪の事態を招いた。先生は生徒の変調を知ったら抱え込まないで。学校はそれをすくい上げる場を。
この問題では五月末、男子生徒へのいじめ内容を告発するメモを同級生が担任に渡していた。担任は内容の一部について相手を指導したが、男子生徒が聞き取り調査に「いじめと思われるのは意外」と答えるなどしたため、対処はここで終わり、メモの存在は校長に伝わらなかった。
もし、情報が共有されていたら-。

<数年前、関東地方の中学一年の男子生徒が欠席がちになった。母親から「学校で嫌なことがあった。転校も考えたい」との申し出があった。担任はすぐに母親に会い、校長ら上層部に伝えた。校長の指示で、複数の教員が彼から目を離さず、休み時間にも声を掛けて面倒を見続けた。これが数カ月続き、彼は安心して登校するようになった。「嫌なこと」は級友に陰口を言われていたことだった>
千葉大の藤川大祐教授(教育方法学)が明かす実際の事例だ。藤川教授は「上層部がリーダーシップを発揮した。親とすぐ話したことで『学校に言っても仕方ない』と半ばあきらめていた親の不信感も取り除けた」と話す。
大津市のいじめ自殺をきっかけに制定された「いじめ防止対策推進法」も「組織的な対応」を規定する。教育評論家の尾木直樹さんは「学校は学力を上げることに集中し過ぎている」と生徒への“目配り”の不足を指摘。「情報共有のための会議を頻繁に開くようにできないか」と提案している。
さらに一歩踏み込み「組織すべきなのは(学校側よりむしろ)同級生や同学年の子どもたち」と説く専門家もいる。岐阜大の近藤真庸教授(教育学)だ。「受験を控え、多感な子どもたちにトラブルが起きるのは自然な現象」という前提に立ち「生徒を信頼し、子どもたちから力を借りて解決させることこそ、教師に求められた『指導』ではないか」と話す。
いずれにせよ、悲劇を繰り返さぬため、学校側はあらゆる手だてを講じるほかない。今回の問題では、同級生の告発の情報は校長らへ上がらなかった。誰であれ、ネガティブ(前向きでない)な事案ほど矮小(わいしょう)化してしまいがちだ。情報共有や組織的対応がしやすい校内の空気、仕組みづくりが強く求められている。