古墳と世界遺産 学術調査が欠かせない - 朝日新聞(2019年7月11日)

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大阪府の堺、羽曳野(はびきの)、藤井寺3市に広がる「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」が世界文化遺産に登録されることになった。
宮内庁が「仁徳天皇陵」として管理する国内最大の前方後円墳「大山(だいせん)古墳」をはじめ、4世紀後半から5世紀後半に築造された49基からなる。喜びに沸く地元では、気球を飛ばして古墳を上空から見るプランが飛び出すなど、観光客の呼び込みへ盛り上がりを見せている。
ただ、登録は遺産として保存し、後世に継承することが目的だ。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会は審議で、古墳群が市街地にありながら保存管理され、住民運動によって開発から保護された例もある点を評価した。このことを忘れずに、地域の貴重な財産として保全と活用の調和に努めてほしい。
懸念はほかにもある。十分な学術的裏付けを欠いたまま、被葬者の名前が独り歩きしかねない古墳が少なくないことだ。
全体の6割にあたる29基は天皇や皇后、皇族を埋葬したとされる陵墓である。それらを皇室用財産として管理する宮内庁は「静安と尊厳の保持」を理由に原則非公開とし、本格的な調査を認めていない。そのため、葬られた人物像をめぐって諸説がある古墳が目に付く。
宮内庁仁徳天皇陵とする大山古墳についても、推定される築造時期との矛盾などさまざまな異論が考古学者らから示されてきた。ところが世界遺産への登録では「仁徳天皇陵古墳」として推薦され、そのローマ字表記で登録されることになった。考古学界には「誤った理解」の広がりを懸念する声がある。
ユネスコの委員会は、古墳群を「古代東アジアの墳墓築造のひとつの顕著な類型を示すもの」と位置づけた。東アジア史という広い視野に立ち、被葬者像をめぐって学説が定まっていない現状を含め、最新の知見を内外に発信する必要がある。
大山古墳では、宮内庁が昨年、堺市とともに濠(ほり)に面した堤の一部で発掘調査を実施し、列状に並んだ円筒埴輪(えんとうはにわ)や石敷きを確認した。ただ、この調査は堤の保全工事に向けた状況の確認が目的で、全容に迫るための本格調査にはほど遠い。古墳の保全に配慮しつつ調査を積み重ね、成果を公表していく。そんな開かれた姿勢が求められる。
歴史的・学術的に価値が高いとされた古墳について、国は史跡に指定し、文化財保護法に基づき体系的に管理・保全しながら調査の結果を公開してきた。大山古墳などの陵墓も特別扱いせず、まず史跡に指定すべきではないか。考古学者らのそうした意見にも耳を傾けたい。