低空飛行問題 県民の不安と向き合え - 信濃毎日新聞(2019年7月6日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190706/KP190705ETI090012000.php
http://archive.today/2019.07.07-093809/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190706/KP190705ETI090012000.php

佐久地方で5月に米軍輸送機2機が低空飛行した問題が、5日まで開いた6月県会で取り上げられた。
驚いたのは、訓練情報の事前提供などを強く要請すべきだとして第2会派が提出した意見書案が否決されたことだ。住民の不安を議員らがどれほど重く受け止めたのか、疑問を禁じ得ない。
県内は米軍の訓練空域があり、南信でオスプレイの目撃も急増中だ。地元の意思は機会をとらえて何度でも国に明示すべきだろう。
意見書案では国会や政府に対し、訓練情報を把握して事前に自治体に提供するよう求めた。市街地や観光地上空の飛行を避け、高度などを定めた日米合意を守り、県民や観光客に不安を抱かせない配慮を国が米軍に強く求めることも要請した。県が6月に防衛省に行った口頭要請と同じ内容だ。
本会議で地元選出議員は「住民不安は相当強い。議会は真摯(しんし)に対応する責任がある」と賛成討論した。一方、4月の県議選で過半数となった自民党県議団は、訓練の必要性を強調した上で「日米合意事項に反する事実が明確に確認されていない段階での提出には賛成できない」とした。他の全会派の賛成で賛否同数になり、69年ぶりの議長裁決で否決した。
米軍機は日米地位協定によって日本の航空法の適用外だ。日米合意では最低高度を住宅密集地で周辺の建物上端から300メートル以上―などとするが、実際に守られているかどうかは不明だ。
県や市に飛行の実態を把握する考えはあるのだろうか。今回は住民らが撮影した映像が複数ある。県会で「(映像から)高度解析は難しいのか」と質問された県は「承知していない」と答弁した。映像の入手すらしていないという。佐久市も高度などの解析は「考えていない」としている。
これでは合意違反の有無は確認できない。低空飛行が何度あっても県会は意見書提出の「段階」を迎えないことになる。高速で突然飛来する米軍機は騒音被害のほか部品落下、他機との接触、墜落の心配がある。安全は国と米軍任せで―との考えなら、甘すぎる。
沖縄県高知県は飛行地域で騒音を測定し、県民生活への影響把握に努めている。都内の民間団体は画像から米軍ヘリの高度推計を試みた。全国知事会地位協定の抜本見直しを国に求めている。
今回の問題を巡り、県も口頭要請以上の対応を示していない。飛行実態の把握を進め、説得力のある要請活動につなげるべきだ。