ハンセン病訴訟 家族も当事者である - 東京新聞(2019年7月2日)

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ハンセン病患者の「隔離政策」で本人だけでなく家族も差別されたとして、熊本地裁は国に、家族への賠償を命じた。今も偏見に苦しむ家族を救うため、国は判決を受け止め、謝罪を考えてほしい。
ハンセン病は「らい菌」による皮膚などの感染症。遺伝せず、感染力は弱い。第二次大戦後は化学療法で完治するようになった。しかし、隔離政策はその後も維持され、一九九六年に「らい予防法」が廃止されるまで約九十年間も続いた。
二〇〇一年、熊本地裁は「隔離政策は違憲」として患者本人への賠償責任を認めた。
今回の判決は救済範囲を家族に広げ、五百四十一人に約三億七千六百万円の支払いを命じた。国会議員や厚生労働相に、らい予防法を早期に廃止しなかった不作為があり、差別解消の啓発・教育が不足だったとして法相と文部科学相にも責任があったと述べた。
これまであまり注目されなかった「家族への差別被害」として、判決は「村八分」や就学・就労の拒否、結婚差別、進路など人生の選択肢の制限などを挙げた。
さらに「家族関係の形成の阻害」も示した。家族からの聞き取り調査に奔走した東北学院大の黒坂愛衣准教授は、著書『ハンセン病家族たちの物語』で、「ハンセン病の肉親に冷たい態度や言葉で接してしまった」「療養所からの一時帰省を喜べなかった」「病気の肉親の存在を隠した」-など、家族の言葉を紹介している。
本人を救済した〇一年判決の際、控訴を求めた官僚らに「患者の状況は悲惨だった」と、控訴断念を主張し、当時の小泉純一郎首相の決断に導いた一人である坂口力厚労相は、今回の判決を評価しており「家族にも救済が広がったのは正しい判断だ」と本紙に語った。
黒坂准教授は前出の著書で「家族は『当事者(患者本人)の関係者』なのでは決してなく、かれら自身が『家族』という当事者」と書いている。国は今回の判決を重く受け止め、本人たちと同様に、家族たちにも謝罪を考えるべきだ。
家族訴訟の弁護団は、今回の訴訟の意義の一つとして、「家族を差別した社会の側の責任を明らかにすること。被告は国だが、私たち社会の側も責めを問われている」と述べている。
判決は「隔離政策」が差別の根源だとしているが、差別的な言動に走ってしまったのは社会である。家族の長く苦しい人生に思いをはせたい。