救えぬ虐待 死の教訓全国で生かせ - 東京新聞(2019年6月17日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019061702000141.html
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命が守れなかった過程で何が起きていたかが明らかになるにつれ、怒りが募る。札幌の二歳女児の衰弱死は、虐待事件が相次ぎ再発防止が叫ばれている中、その教訓を無視する形で起きた。
池田詩梨(ことり)ちゃん(2つ)が六月に亡くなるまで、危険な兆候は何度も見過ごされた。
虐待通告を受理してから原則四十八時間以内に安否確認をするというルールも、札幌市児童相談所は守っていなかった。四月、近隣住民から「昼夜問わず泣き声が聞こえる」という二度目の虐待通告があった時だ。ルールは東京都目黒区で起きた虐待事件を受けて昨年七月、国が決めた。
死なせずにすんだ最後のチャンスは、三度目となる通告が札幌南署にもたらされた五月中旬だった。署は児相に同行を持ち掛けたが児相職員は行かなかった。
警察と児相の言い分は二転、三転しており、責任の押し付け合いにも映る。惨事を繰り返さないためには、真摯(しんし)な検証が不可欠だ。
くみとるべき教訓はいくつもある。女児の身体にはやけどの痕やあざがあったが、署員は母親の説明や、けがが軽度だったことから虐待はないと判断したという。
しかし死亡時、体重は平均の半分しかなかった。二歳では何が起きているか自分できちんと説明することも難しい。より繊細、詳細に育児放棄の可能性を見極めていくべきではなかったか。
その意味でも、専門家が同行しなかったことが悔やまれる。児相は同行しなかった理由として夜間の態勢が取れないことを挙げていたが、夜間休日業務は児童家庭支援センターに依頼することもできた。それも怠っていた。
札幌市では事件の前から第二児童相談所をつくることを検討していたという。通告も増えていく中で、職員一人当たり百件以上の案件を抱え、子どもたちを一時保護する施設の広さも十分ではないという。
子どもや親のSOSを受け止めるべき組織が、パンク寸前となっている。その危機感を行政全体でどこまで共有できていただろうか。乳幼児健診で女児の低体重は確認されていたという。
全国の児童相談所も程度の差こそあれどこも余裕はないだろう。国は法改正して機能を強化し人員も増やす方針だが、態勢が追いつくのを現実は待ってくれない。出産前の支援の段階から子どもにかかわる機関の連携を強めていくほかに命を救う手だてはない。