報告書の拒否 逃げて不安を広げるな - 東京新聞(2019年6月14日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019061402000181.html
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老後は年金以外に二千万円不足すると試算した金融庁の報告書が宙に浮いている。与党・自民党も国会審議から逃げている。報告書をないものにしたいのだろうが、年金制度の問題はなくならない。
年金制度の実情説明から逃げ回っていてはかえって不安を拡大させることになる。政府・与党はそれを自覚すべきだ。
麻生太郎副総理兼金融担当相の報告書受け取りの拒否は、理解に苦しむ。
「制度自体が崩壊するかのごときに思われるような表現になっていた」「これまでの政府の政策スタンスとは違う」と麻生氏は言う。
報告書は年金制度が維持できても十分な給付が得にくくなると言っている。
厚生労働省が五年前に公表した年金の財政検証では、経済状況によるが今後百年間で現役世代の手取り平均収入の半分の給付水準は維持できる。ただし、水準はそこに向かって徐々に目減りすると示した。報告書と矛盾しない。
むしろ政府は報告書を受け取った上で考えを堂々と主張すればいいのではないか。迫る参院選への影響を考え、報告書自体をなかったことにしたいのだろう。
年金制度への関心の高まりは改革論議のチャンスだ。政府の対応はあまりに無責任である。
自民党の姿勢も疑問だ。
森山裕国対委員長は「報告書はないから審議の対象にならない」と、野党が求めている集中審議を拒否した。
政府が報告書を受け取らなかったとしてもそこに指摘されている事実や問題点は変わらない。
政府は国会に対し年金制度の実情を説明する責任がある。国会もその機会を奪ってはその責務を果たすことにはならない。国会会期末まで時間がある。審議を求める。
野党にも言いたい。
「年金不安」として参院選で政府・与党への攻撃材料になると考えていないか。だが、社会保障の議論は与野党関係なく社会の支え方を考える問題である。政争の具にすべきではない。
二〇一二年に旧民主、自民、公明三党がまとめた「社会保障と税の一体改革」は、それを政治の駆け引きに使わず問題意識を共有して制度改正につなげようとの改革だった。それを忘れてほしくない。
国民は「制度がどうなっているのか」をまず知りたい。そして「どうすればいいのか」を聞きたい。そこに向かって建設的な議論をしない限り不安は消えない。