[天安門事件30年]民主化後退を憂慮する - 沖縄タイムス(2019年6月4日)

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中国共産党・政府が学生らの民主化運動を武力弾圧し、国際社会に大きな衝撃を与えた1989年の天安門事件からきょうで30年になる。
同年4月に死去した改革派指導者、胡耀邦共産党総書記の追悼を機に起きた学生らの民主化要求に対し人民解放軍が無差別に発砲した。首都北京市の幹線道路は数キロにわたって血に染まったという。
犠牲者数について当局は319人と発表しているが、実際ははるかに多いとみられる。正確な数は不明だ。
党・政府は事件を「政治風波(騒ぎ)」と矮(わい)小(しょう)化。昨年末、中央党史文献研究院が発表した年表には、新たに「反革命暴乱」の表現を盛り込み、武力弾圧を正当化する立場をさらに鮮明にした。
中国は事件後、民主化に向けた政治改革に背を向け、一党独裁による社会の安定を重視した。経済成長を追求し、2010年には日本を抜き米国に次ぐ世界第2位の経済大国になった。
習近平共産党総書記(国家主席)が12年に最高指導者の地位に就いてからは政治的引き締めも強まった。真相解明や犠牲者の名誉回復を求める知識人や活動家らを投獄。昨年3月の憲法改正国家主席の任期制限が撤廃され、長期支配に道筋をつけた。強権化が一層進む。
ネットやメディアの言論統制を強化するなど民主化は悪化の一途をたどる。
経済的に豊かになれば、国民から民主化基本的人権を求める声が上がるのが自然な道理である。これらを強権的に封じ込める現在の体制をとり続ければ、いずれ立ち行かなくなるであろう。

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今年4月、フランスで開かれた先進7カ国(G7)外相会合の共同声明に、昨年に引き続き、中国の人権活動家やウイグル族チベット族への弾圧について懸念することが明記された。
国際社会は、非民主的で独裁色を強める政治体制のまま強国路線をひた走る中国に警戒感を抱いている。
ただ中国の経済力が高まるにつれ人権状況の改善や民主化を促す国際的な声が弱まっているのが懸念される。
服役中にノーベル平和賞を受賞した民主活動家、劉暁波氏が17年、肝臓がんによる多臓器不全のため事実上、獄中死した。民主化運動のリーダーで授賞式への出席が認められず、国外での治療も許されなかった。
中国が国際社会から批判を浴びたのは当然だ。大国にあるまじき人権感覚と言わざるを得ない。

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「暴徒」の汚名を着せられて子を亡くした親の会「天安門の母」は3月、全国人民代表大会全人代=国会)の代表(議員)らに真相解明を求める公開書簡を発表した。
だが主要メンバーはメディアとの接触を禁じられ、自宅などで軟禁下に置かれている。事件について語ることが許されず、今も弾圧が続いているのである。書簡で天安門の母は「涙は乾き、力は尽きた」と絶望感をあらわにした。
真相解明に応えないようでは国際社会からの信頼は遠のくばかりである。