木村草太の憲法の新手(105) 衆院解散の手続法を 内閣は議員に理由を説明すべき - 沖縄タイムス(2019年6月2日)

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夏の参議院選挙に合わせ、衆議院解散総選挙が行われる可能性が指摘されている。そこで、解散権のありかたについて検討してみたい。
憲法69条は、内閣不信任決議による衆議院解散を定めるが、それ以外にも解散できるのかは解釈の余地がある。現在の実務では、内閣の助言と承認に基づき天皇衆議院を解散すると定める憲法7条を根拠に、内閣は、いつでも自由に衆議院を解散できると理解されている。
学説でも7条解散説はあるが、恣意しい的な理由での解散は許されないとしている。例えば、与党の党利党略や閣僚の私利私欲のための解散は、違憲とされる。憲法7条自体、衆議院の解散は、首相や政権与党の都合ではなく、「国民のために」行われるものだと宣言していることも、この解釈を裏付けるだろう。
歴代の国会議員や首相・閣僚も、解散には大義が必要だということを当然の前提にしてきた。しかし、近年の解散では、大義の存在が怪しく、違憲の疑いがかけられることが増えている。
例えば、2014年末の解散について、首相は「消費税増税延期の是非を問う」と説明した。しかし、当時、主要政党はどこも増税延期に反対しておらず、解散総選挙をしても、有権者増税延期を問うことはできなかった。また、17年秋には、野党から求められた臨時国会を、審議開始前に解散した。その国会では、森友・加計問題の追及も予定されており、疑惑隠しではないかとの批判が上がった。首相は、「国難突破解散」だと説明したが、争点説明は不明確だった。
恣意的に見える解散が行われてきた要因の一つに、首相が、解散理由について、国民の代表からの質疑を受け、十分に説明する機会がないことが挙げられる。解散権行使により、国会は即時に閉会となるから、国会議員が解散理由を問う時間がないのだ。
この点、私は、17年3月23日の衆議院憲法審査会で、解散手続きを定める法律の制定を提案したことがある。具体的には、内閣が解散の方針を決定したときに、解散理由を衆議院で説明し、衆院議員に解散理由を質問する機会を与える法律だ。
この法律は、解散の手続きを定めるだけで、解散権自体を制限するものではない。7条解散説を前提にしても、違憲の評価は受けないだろう。
また、恣意的な理由での解散が許されないことには、国会議員全体のコンセンサスがある。まともな首相・閣僚であれば、「説明できない理由で解散権を行使しよう」などと考えるはずがなく、与野党の国会議員・首相・閣僚のいずれも、内閣に解散理由を説明させる法案に反対するわけがない。
5月29日の衆院内閣委員会では、この提案について、谷田川元議員(国民民主党)と菅義偉官房長官との間でも議論が行われた。谷田川議員は、提案を「非常にいい」と評価した。また、菅長官は、提案の論評は避けたものの、恣意的な理由での解散があってはならないことには同意した。
国民のためを考えない、党利党略・私利私欲のための衆議院解散などあってはならない。できるだけ早いうちに、衆議院の解散に関する手続法を整備すべきだ。(首都大学東京教授、憲法学者