自治体職員削減 国の発案は短絡的過ぎる - 信濃毎日新聞(2019年5月24日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190524/KT190523ETI090006000.php
http://archive.today/2019.05.24-004744/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190524/KT190523ETI090006000.php

人口縮小のペースに合わせれば、地方自治体の職員数を3万人減らせる―。
財務省が、地方財政について議論した審議会で、こんな試算を提示した。近くまとめる建議(意見書)に盛り、2020年度予算案に反映させる構えでいる。
国と地方の財政は逼迫(ひっぱく)している。無駄を省き、業務効率を高める努力は必要だ。だからといって人口に合わせ、職員を削る発想には賛同できない。
都道府県と市町村の職員数は05〜10年に大幅に減った。14年からは増加に転じ、昨年までに計1万人ほど増えている。
財務省は、人口千人当たりの職員数を18年水準に据え置いても、大量採用を控えれば、25年までに3万人の削減が可能とした。人工知能(AI)活用や、近隣自治体での事務一括処理を推進し、人員を絞るよう求めている。
05〜10年の大幅減は「三位一体改革」や「平成の大合併」が原因だった。市町村数は4割強も減って1700余に再編され、岐阜県高山市のように3分の1もの職員を削減した自治体があった。行政機構の「選択と集中」は、旧町村部の衰退を加速した。
増加に転じたのは、その反動だろう。少子高齢化に伴い、自治体が担う医療や福祉の仕事は増えている。人口が少なくなっても、管理する道路や橋、水道といったインフラが減るわけでもない。
財務省が挙げた「近隣自治体による事務の一括処理」は、政府が検討する「圏域」構想と軌を一にする。一帯の市町村の財源と権限を行政主体となる「圏域」に集める内容で、自治体側は「事実上の合併だ」と反発している。
安倍政権には地方交付税を減額し、地方公務員の給与カットを強制した前例がある。経済合理性に偏って地方自治に手をかける姿勢は、公共サービスの民営化、民間委託の促進にも表れている。
自治体側は、国の一方的な論法に抗議し、行政改革は自ら実践する立場を明示すべきだ。
1980年代から公共サービスを民営化してきた欧州でいま、再公営化の動きが急速に高まっている。市民も参画する運営組織を設け、質の高いサービス提供を実現した例が少なくない。
日本では共同体が空洞化し、交通や介護、ごみ処理をはじめ、日常生活の大部分を自治体が支えている。代替機能もないまま、自治体のみを改変しようとすることに無理がある。一朝一夕ではいかない構造的問題であるはずだ。