認知症の予防 数値目標は懸念拭えぬ - 北海道新聞(2019年5月22日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/307403
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認知症になる人の割合を減らす数値目標が一人歩きしてしまわないか、懸念が拭えない。
政府は、従来の「共生」社会の実現に加え、「予防」重視を打ち出した新たな認知症対策の大綱素案を公表した。
初めて数値目標を設定し、70代に占める認知症の人の割合を2025年までの6年で6%減、10年で1割減を目指す。
認知症の医療・介護費など社会的コストは30年に21兆円を上回るとの推計もあり、予防で認知症になる年齢を遅らせ、社会保障費の抑制につなげる狙いのようだ。
しかし、認知症はいまだに治療法も予防法も確立されていない。予防を強調しすぎると、認知症になった人が責められるような風潮を生まないか危惧される。
認知症になっても安心して暮らせる共生社会の実現に軸足を置くべきだ。
現行の認知症施策「新オレンジプラン」は15年に策定され、住み慣れた地域で自分らしく暮らせる社会の実現をうたう。
20年度末までに当事者や家族を支援する「認知症サポーター」を1200万人養成し、交流の場となる「認知症カフェ」の全市町村設置を目標に掲げる。
こうした環境整備を急がなければならない。
厚生労働省は、認知症の高齢者が15年の約500万人から25年には約700万人に増え、高齢者の5人に1人に達すると予測する。
今回の大綱素案が「共生」とともに重視する「予防」では、運動不足の解消や高齢者らが交流する「通いの場」の拡充などを図る。
一般的に、予防のため、禁煙や節酒などが推奨されるが、科学的根拠は不十分だ。
予防の取り組みや研究を進めるのは当然だが、数値目標を設けるのは拙速ではないか。
認知症の人の団体メンバー根本匠厚生労働相に、予防重視は「予防に取り組んでいながら認知症になった人が落第者になってしまう」と伝えた。
こうした当事者の声を十分にくみ取ったか疑わしい。
全国各地で、認知症の人たちが思いを語る「本人ミーティング」が広がっている。
認知症でも人の役に立ちたいと望む人は多い。
介護をする家族や若年で認知症になる人なども置き去りにならぬよう、政府は、誰もが認知症になり得ることを前提に、制度を練り上げる必要がある。