北方領土返還「戦争で」 潔く国会から去るべきだ - 毎日新聞(2019年5月15日)

https://mainichi.jp/articles/20190515/ddm/005/070/048000c
http://archive.today/2019.05.15-011643/https://mainichi.jp/articles/20190515/ddm/005/070/048000c

国民の代表である議員として許容される範囲をあまりに逸脱した発言だ。もはや国会に籍を置くべきではなかろう。
日本維新の会丸山穂高衆院議員が、北方領土返還は戦争をしないと実現できないともとれる発言をした。ビザなし交流で元島民と国後島を訪れ現地での懇談で飛び出した。
丸山氏が北方領土を「ロシアと戦争で取り返すのは賛成か反対か」と問い、元島民が「戦争なんて言葉を使いたくない」と応じると、「戦争をしないとどうしようもなくないですか」と述べた。
国家間の問題をいとも簡単に戦争で解決しようと言う政治家がどこにいるだろう。現代では、政治の究極的な目的は戦争を起こさないことにある。あまりの見識の無さにあきれるほかない。
大戦末期、ソ連が中立条約を一方的に破棄して対日参戦し、北方四島を軍事占領したのは史実だ。
戦後、北方四島の帰属をめぐって交渉が続けられてきた。そうした経緯を無視して武力で取り返せばいいというのは、時代錯誤も甚だしい。
丸山氏は衆院沖縄・北方領土特別委員会の委員として同行した。35歳の丸山氏は経済産業省の元官僚だ。領土交渉を国会で審議する重要な立場だが、領土問題の歴史をきちんと理解しているのか疑わしい。
ソ連侵攻時、北方四島に住んでいた約1万7000人のほぼ半数が脱出した。残りの島民も後に強制退去させられ、多くが抑留を経て日本に帰還した苦難を体験している。
そんな戦争被害者である元島民に「戦争」を解決の手段として押し付けるというのは無神経に過ぎる。元島民が不快感を示したのは当然だ。
現在、日露間の平和条約交渉で基礎となっているのが、1956年に締結された日ソ共同宣言である。
宣言は、サンフランシスコ講和条約に参加しなかったソ連との戦争状態を終結させるものだった。
平和的手段による紛争解決が明記され、両国の国会が批准している。それを履行する責任はいまの国会議員にも課せられている。丸山氏にその自覚があるとは思えない。
維新は除名処分を決定した。しかし、党籍を失って済む話ではない。潔く議員を辞職すべきだ。