<金口木舌>戦の記憶に耳を傾けて - 琉球新報(2019年5月4日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-912840.html
http://archive.today/2019.05.04-024139/https://ryukyushimpo.jp/column/entry-912840.html

安里配水池のある那覇市おもろまちの小高い丘は沖縄戦で日米両軍が激しく戦った場所だ。74年前の5月、頂上の争奪戦を繰り広げ、米軍が制した。米軍の死者は2662人、極度の精神疲労者は1289人に上ったという。日本側の犠牲者数は定かではない

▼米軍が「シュガーローフ」と呼んだ一帯を歩いた。坂の斜面は草木に覆われ、静けさが漂う。戦闘の様子を記した「説明板」が戦いの記憶に触れるよすが
▼苛烈な戦争体験は精神疾患を引き起こす。共同通信の調べによると、日中戦争、太平洋戦争で精神疾患になり、戦傷病者特別援護法に基づく療養費を受給しながら入院生活を送る旧日本軍の軍人・軍属が1970年度は567人いた
▼年々減り10年度に21人になり、平成の終わりを前に全員が他界した。心の病に苦しんだ人の壮絶な人生に心を重ねる
沖縄戦を体験した元学徒隊の男性の証言が忘れられない。一緒に避難した友達が撃たれて即死した。男性は振り返らず逃げた。生きるために「歩けなくなったらお互い放っておこう」と約束していた
▼戦後、友達の夢を何度も見た。高齢になっても罪の意識を感じ「夢を見るのがつらい」と顔をこわばらせた。戦争がもたらす心の傷は深く、消えない。「令和」の時代も平和であってほしいと誰もが願う。過去の記憶に耳を傾けることは平和な未来につながる。