【私説・論説室から】「寄り添う」って何だ - 東京新聞(2019年4月29日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2019042902000157.html
http://archive.today/2019.04.30-001555/https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2019042902000157.html

医療に関する記事や社説を書くとき、便利な言葉がある。「倫理的に問題」。法的には問題がなくても、それは社会に受け入れられるのだろうか、という問い掛けに使う。
だが、望ましい医師は、倫理的に正しいだけではない。多くの人にとっては、三船敏郎が主演した映画「赤ひげ」のイメージだろうか。腕はよく、人情に厚い。「現代の赤ひげ」もよく使われる表現である。
まさにそういうお医者さんから「世界の医療の現場から」という本をいただいた。著者の本田徹さんは四十五年間、東京・山谷や東ティモールなどで活躍してきた。これまでの軌跡と思考をまとめたという。
晩年の東京・山谷の俳人いざわさわ男さんの主治医を務めた。たばこで慢性閉塞(へいそく)性肺疾患になったのに「医者の忠告など屁(へ)のかっぱ」で職業的無力感を味わったという。それでも、いざわさんの生き方を通して「患者を医者の価値観に従わせるのではなく、その人なりの健康を少しでも増してゆくお手伝いをすることと思うようになった」と記す。
あとがきに「今年二月から福島県双葉郡の高野病院でお世話になる。苦境にある双葉の医療にすこしでもお手伝いでき、高齢者や障害者の方々に、細い手でも差し伸べられれば、幸いです」と近況が書かれていた。
寄り添う、という言葉の似合うお医者さんである。次の本が待ち遠しい。 (井上能行)