[強制不妊救済法成立]国の責任があいまいだ - 沖縄タイムス(2019年4月26日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/413714
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優生保護法(1948~96年)の下で、障がいなどを理由に不妊手術を強制された被害者への「反省とおわび」と一時金320万円を支給する救済法が参院本会議で成立した。
旧法の「優生手術」規定が削除されてから23年。ようやく国の救済策が動きだす。被害者が高齢化する中、救済に向けて議論を急いだことは一定評価できる。
だが、障がい者差別を認め、子どもを生み育てる権利を国によって奪われた被害を考えれば、遅すぎる。
被害者が求めてきた旧法の違憲性に触れず、不十分な内容と言わざるを得ない。
救済法は前文で、被害者が受けた心身の苦痛に対し「われわれは、それぞれの立場において、真摯(しんし)に反省し、心から深くおわびする」とうたう。しかし、「われわれ」とは主体があいまいで、国の責任を明確にしていない。
安倍晋三首相は談話を発表し、反省と謝罪の意を示したが、前文の言葉をなぞる形だけにとどまり、国の責任には言及しなかった。
長年にわたる非人道的な政策に対する国の謝罪は当然だが、責任の所在を明らかにすることなく被害者の人権と名誉回復は図れない。
一時金にしても、優生手術を巡る全国の一連の訴訟の請求額は約1千万円~3千万円台後半で、要求とはかけ離れている。
救済制度の個別通知も盛り込まれず、申請期限も5年としたことで、被害者が見過ごされる恐れもある。解決すべき問題は多い。

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旧法は48年に議員立法で成立。優生手術は40年余にわたって行われた。96年に手術規定が削除されたが、法改定後も国は謝罪や補償を拒んだ。国会も見過ごしてきた。
医療・福祉分野の関係者でつくる「優生手術に対する謝罪を求める会」は97年の早い時期から国に被害者の実態検証などを求めていた。
当時はメディアも含め真正面から問題視する議論は深まらなかった。被害者の切実な声を社会全体で受け止められなかったことも反省しなくてはならない。
国によると不妊手術を受けたのは約2万5千人に上る。大半は裏付けとなる公的記録が残っておらず、被害の全容は明らかになっていない。
救済法には旧法の経緯や被害実態の調査を行うことも明記された。被害者の悲痛な声に真摯に耳を傾け、継続的な補償と実態を掘り起こし、検証がなされるべきだ。

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過去の過ちと向き合い、問題解決への着実な一歩とするためには、障がい者ら弱者への差別意識や排除の問題をなくすことが必要だ。
5月には仙台地裁宮城県の女性が起こした訴訟の判決が予定されている。国の責任と旧法の違憲性が焦点で、判決次第では救済制度の見直しなども迫られるだろう。
国や国会は、被害者の訴えにしっかり寄り添い、何よりも尊厳回復を最優先とし、救済法の前文に掲げる「共生社会の実現に向けて努力を尽くす決意」の責任を果たさなければならない。