アサンジ容疑者 メディア規制を恐れる - 東京新聞(2019年4月19日)

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国家の暗部を暴く権力の監視人なのか、それとも機密を盗んだ犯罪者なのか-。英当局に逮捕されたウィキリークス創設者のアサンジ容疑者の評価は分かれる。その功罪を冷静に見極めたい。
内部告発サイトのウィキリークスは、二〇一〇年に米陸軍の情報分析官から提供を受けたイラク戦争アフガニスタン戦争の関連文書をはじめ機密指定された大量の資料を公開した。
とりわけ、イラクで活動する米軍ヘリが一般市民やジャーナリストを武装勢力と誤認して殺害した映像は、世界に大きな衝撃を与えた。
米司法省の起訴状によると、アサンジ容疑者の罪状は、この情報分析官が米当局のネットワークにハッキングで侵入するのをほう助するために共謀したことだ。
憲法が保障する「報道の自由」に抵触しないように、機密漏えいに関わる罪状を適用したとみられる。
合憲性が問われる関門を巧みに迂回(うかい)したとも言えるこの手法に対して、メディア規制に悪用されるという懸念が広がっている。ヒューマン・ライツ・ウオッチはじめ人権団体などは、アサンジ容疑者の身柄を米当局に引き渡さないよう英当局に求めている。
権力監視の役割を持つメディアを黙らせるとともに、不正を内部告発しようという人を萎縮させる危険性があるからだ。公共の利益に資する情報の提供・公開に二の足を踏む風潮が広がり、国民の知る権利が侵害されるようなことがあってはならない。
ただ、アサンジ容疑者には不透明感がつきまとうのも事実だ。
ロシアが二〇一六年の米大統領選に介入したロシア疑惑を捜査したモラー特別検察官は、ロシアがクリントン陣営へのサイバー攻撃で大量のメールを入手し、ウィキリークスに提供したと断定した。
選挙中は「ウィキリークスを愛している」と繰り返したトランプ大統領は、アサンジ容疑者が逮捕されるや、「私はウィキリークスについて何も知らない」と手のひらを返した。
だが、トランプ氏の元側近はウィキリークスのメール暴露の計画をトランプ氏も事前に知らされていた、と議会証言している。
トランプ陣営とロシア、それにウィキリークス三者の関係は、全容が解明されたわけではない。ジャーナリズムを逸脱する行為はなかったのか、アサンジ容疑者には説明する責任がある。