ゴーン被告保釈 「人質司法」から脱せよ - 東京新聞(2019年3月6日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019030602000144.html
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日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告の保釈を認める決定が出た。昨年十一月の逮捕以降で身柄拘束は既に百日を超えた。海外からも批判が出た「人質司法」と呼ばれる悪弊から脱すべきだ。
人質司法とは、自白しない限り、被告の身柄拘束が長期化する傾向にある人権問題だ。捜査機関の見立てに沿った「自白」をすれば、保釈を得やすくなる。つまり虚偽自白を誘発しやすく、冤罪(えんざい)の温床だとかねて批判が強かった。
このことは刑事法の泰斗・平野龍一東大名誉教授もかつて次のように指摘していた。
「保釈を許さないのは(中略)被疑者と外界との遮断のために用いることを暗に認めたもので、供述の強要を禁止した憲法の趣旨にも合致しない」
理にかなう考え方であり、人質司法は改められねばならない。この問題意識は、ゴーン事件によって国外にも広がる結果となった。海外の優秀な経営者が日本に来られなくなるとも…。ゴーン氏側の場合、三回の保釈の申請をし、弁護士が交代した今回、認められた。背景がある。弁護人の弘中惇一郎氏が四日、日本外国特派員協会で会見し、それを説明した。
一つはゴーン氏が早い保釈を強く希望していること。もう一つは監視カメラやコンピューターを使った方法により、ゴーン氏が外部と情報交換できないようにすること-。つまり逃亡の恐れも証拠隠滅の恐れも消えた。保釈決定は裁判所もそれを認めた証しだ。
またゴーン氏の家族が国連人権理事会に「重大な人権侵害がある」として通報すると表明している。もはや人質司法は国際水準から人権の問題ととらえられる恐れが強い。その点からも早く悪弊から脱却すべきだと考える。
大阪地検による厚生労働省村木厚子局長(当時)の冤罪事件の反省から取り組んだ刑事司法改革でも、この問題は俎上(そじょう)に載った。だが、取り調べの可視化や司法取引の導入などだけにとどまった。検察や裁判所に問題意識が希薄だったのではないか。
起訴された被告は保釈を受ける権利がある。当然のことだ。検察側は日産側との司法取引で重要な証拠を収集して、捜査は終えているのではないか。争点を絞る公判前整理手続きが始まっていないとはいえ、長期の身柄拘束を正当化する理由にはなるまい。
人権と手続き的公正を重視した捜査に脱皮しないと、当然ながら法の正義は守りえない。