原発賠償指針、被害実態に合わず「見直しを」 福島33市町村長 - 毎日新聞(2019年3月4日)

https://mainichi.jp/articles/20190304/k00/00m/040/186000c
http://archive.today/2019.03.05-001917/https://mainichi.jp/articles/20190304/k00/00m/040/186000c

東京電力福島第1原発事故の賠償基準を定めた「中間指針」に関し、福島県内33市町村の首長に毎日新聞がアンケートしたところ、8割超の28人が「見直しが必要」と回答した。指針で提示された賠償額を不服として起こした訴訟や裁判外紛争解決手続き(原発ADR)で、指針を上回る慰謝料を認める例が相次ぐ中、「実態に合っていない」などが主な理由。首長たちは「被害全体の救済につながる」とし、現地調査などに基づく見直しを求めている。【宮崎稔樹】
アンケートは今年2月、指針で一律の賠償額を全住民に支払うとしている「避難指示等対象区域」(12市町村)と「自主避難等対象区域」(21市町村)が対象で、33市町村の全首長が答えた。内訳は「見直しが必要」28人▽「見直す必要はない」2人▽その他3人。見直しを求めた首長を区域別で見ると、避難指示等対象区域が7割超(9人)、自主避難等対象区域が約9割(19人)だった。
見直しを求めた首長に理由を尋ねたところ、避難指示が今も大半で解除されていない浪江町の吉田数博町長は「指針の賠償額は被害の実態に合っておらず、慰謝されていないことが明白」と回答した。町民の7割が申し立てた集団ADRの和解案では、指針を上回る賠償額が一律で示されたが、東電の和解拒否で手続きが打ち切られ、集団訴訟に発展している。
全域避難が続く双葉町の伊沢史朗町長は、訴訟やADRで指針を上回る賠償額が提示されていることを念頭に「『被害者が共通して被っている損害』として見直すことが救済につながる」と指摘。避難指示が大半で解除された富岡町の宮本皓一町長は、指針を定める国の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)に対し、「解除後も町は原発事故前の環境に戻っていない。解除地域の現状も定期的に見てもらいたい」とした。
自主避難等対象区域で、住民による集団ADRが東電の和解案拒否で打ち切られた福島市の木幡浩市長は「現状を把握した上で適時適切な見直しを」と求めた。
「見直す必要はない」とした首長のうち、一時全域避難となった飯舘村菅野典雄村長は「見直しによって住民間で大きな混乱が予想されるため」と説明。同じく一時全域避難した楢葉町の松本幸英町長は「指針はあくまでも目安であって、個別・具体的な事情については訴訟やADRで解決すべきだ」とした。
33市町村の大半が強く指針見直しを訴えている背景には、指針で示した賠償額を上回る判決やADRの和解案を、東電が拒否していることへの不満もある。
全国最大の福島訴訟で弁護団事務局長を務める馬奈木厳太郎弁護士は「アンケート結果は、これまでの集団訴訟や集団ADRが個人の賠償という小さな枠組みではなく、被害全体の救済のために有益だと多くの首長が認めている。原賠審はこの声を重く受け止めて、指針の見直しにただちに着手すべきだ」と指摘している。

 

中間指針の見直しに対する33市町村の回答
【避難指示等対象区域】(12市町村)

<必要>

南相馬市広野町富岡町川内村大熊町双葉町浪江町田村市※▽川俣町※

<必要ない>

飯舘村楢葉町

<その他>

葛尾村(どちらとも言えない)

自主避難等対象区域】(21市町村)

<必要>

福島市二本松市本宮市桑折町国見町大玉村郡山市須賀川市▽鏡石町▽天栄村▽石川町▽玉川村▽平田村▽浅川町▽古殿町▽三春町▽小野町▽新地町▽いわき市

<その他>

伊達市◆(無回答)▽相馬市(答えられない)

※一部に自主避難等対象区域を含む

◆一部に避難指示等対象区域を含む

 

中間指針
文部科学省原子力損害賠償紛争審査会が2011年8月に出した賠償の基準。13年12月までに追加で4回補足されたが、基本的な見直しはされていない。強制避難者の精神的賠償は月10万円で、自主避難者への精神的賠償は大人8万円、子どもと妊婦が最大48万円。