(余録)「ヒトラーは戦争に勝つだろうと… - 毎日新聞(2019年2月27日)

https://mainichi.jp/articles/20190227/ddm/001/070/131000c
http://archive.today/2019.02.27-013236/https://mainichi.jp/articles/20190227/ddm/001/070/131000c

ヒトラーは戦争に勝つだろうと、あなたは考えたのか」。ナチス政権下のドイツで「好ましからぬ作家」とされたエーリヒ・ケストナーは、戦争中に滞在先のスイスからドイツに戻った理由を聞かれて、こう答えた。
「もしそう信じていたら、わたしはたぶんスイスにとどまったでしょう」。狂気の時代を「ケストナー終戦日記」(高橋健二訳)に風刺とユーモアを交えてつづる。今月、生誕120周年を迎えた。
二つの世界大戦を経験した作家が、冷戦中の1949年に発表したのが、子どもと識者のために書いた「動物会議」だ。戦争がうわさされるというのに、会議ばかりで何も決められない政治家たち。人間に業を煮やした動物たちが、世界平和のために1回きりの会議を開く。
合言葉は「人間の子どもたちのために」。ネズミが書類をずたずたにし、シミムシが軍服を台無しにして警告するが効果はなし。最後は、少々強引な方法で政治家たちに平和条約を締結させる。
国境をなくし、軍隊や銃砲、爆弾をなくす。ケストナーらしい人間への皮肉たっぷりな話だが、会談や会議ばかり開いて「決められない」世界というのは、今も昔も変わらないらしい。
さて、きょうから2度目の米朝首脳会談が行われる。この20年以上、何度も協議を重ねながら展望が開けなかった北朝鮮の非核化問題だ。トランプ米大統領の言動にも不安がつきまとう。守るべきは子どもたちの将来の安全である。こればかりは、人間の政治家にかかっている。