公文書クライシス 歴代首相の口述を国立公文書館が公的に記録 2019年度から - 毎日新聞(2019年2月24日)

https://mainichi.jp/articles/20190224/k00/00m/040/005000c
http://archive.today/2019.02.24-010715/https://mainichi.jp/articles/20190224/k00/00m/040/005000c

国立公文書館は2019年度から、歴代首相の在任中の体験などを聞き取る「オーラルヒストリー(口述記録)」の事業を始める。首相経験者の口述記録はこれまで歴史研究者らが残してきたが、公文書の保管を担う公的機関による初めての取り組みになる。要請に応じる首相経験者が増えるうえ、退任時の保存ルールがなく散逸や廃棄の危機にさらされている「首相の公文書」の保存につながることも期待される。研究者は「公文書と併せれば政策の決定過程をより詳細に検証することが可能になる」と評価している。
関係者によると、口述記録の対象者は政治への影響を避けることなどを考慮し、現職国会議員でない▽政治活動をしていない▽歴史研究者による口述記録が未実施――などが条件になるとみられる。まずは公文書管理法の制定を主導した福田康夫元首相が検討されている。福田氏は取材に「話があれば、応じなければいけないと思う」と話した。
国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議」は16年3月にまとめた基本構想で「オーラルヒストリーの実施といった新たな手段を取り入れ、収集する資料の範囲の拡大を図るべきだ」と提言。国立公文書館有識者会議を設置し、16年10月から具体策を議論してきた。
有識者会議では「歴史公文書等を補完・補強する」手段として口述記録の必要性を指摘し、「総理などの国務大臣経験者」を対象に挙げた。「政策決定に関わった重要な人物の記録のひとつの象徴が総理大臣」との意見などを踏まえ、首相経験者に打診することになった。
主な口述記録としては、故後藤田正晴元副総理の60時間に及ぶ証言を御厨(みくりや)貴・東京大客員教授らがまとめた「情と理」(講談社)がある。中曽根康弘内閣の官房長官時代、イラン・イラク戦争下のペルシャ湾海上保安庁の巡視艇か海上自衛隊の掃海艇を派遣しようとした中曽根氏に後藤田氏が「閣議でサインしません」と迫ったことで派遣が見送られたエピソードなどが、貴重な記録として注目された。【松本惇、大場弘行】

聞き取りは外部の有識者
御厨貴・東京大客員教授(日本政治史)の話 公的に首相経験者の口述記録を残す制度ができることで、これまでの要請には応じなかった人が証言する可能性は高まる。証言を裏付ける公文書も、国立公文書館が省庁に要請すれば出てきやすくなる。口述記録に対応するため、首相が在任中の資料をこれまでよりも残そうとするのではないか。聞き取りは役人がやるよりも、しがらみのない外部の有識者が行うことが望ましい。ただし、公的な取り組みのため、聞き取る内容や公開の自由度が失われる可能性もある。当初は手探りの運用になるだろう。