勤労統計不正 疑問に応える審議を - 朝日新聞(2019年2月19日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13898905.html
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衆院予算委員会で、統計不正問題の集中審議が開かれた。
政権にとって都合の良い数字になるよう、毎月勤労統計の調査手法を変えたのではないか。野党は「官邸の関与」の追及に質問時間の多くを費やした。
野党が新たに矛先を向けているのが、勤労統計のうち、抽出方式で調査対象を入れ替える中規模事業所の調査手法を、昨年1月に見直した経緯だ。
それまでは2~3年ごとに調査対象を総入れ替えし、サンプル変更の影響を補正するため、過去にさかのぼってデータを修正していた。この方法に対し、首相秘書官が15年3月、「改善の可能性を考えるべきではないか」と指摘。同年6月に厚労省は見直しの検討を始め、昨年の変更に至った。
確かに厚労省が開いた検討会の経過には不自然さがある。途中まで総入れ替え継続の方向で議論が進んでいたのに突然、厚労省側が「部分入れ替えを検討したい」と表明。調査方法の変更につながった。4年前の検討会にもかかわらず、この国会で問題となるまで議事録も一部しか公表されていなかった。
疑念を持たれないように資料を開示し、説明を尽くす責任が政府にはある。
一方で、そもそもの問題の端緒である勤労統計の不正がなぜ長年放置されたのか。組織的な隠蔽(いんぺい)はなかったか。この点の議論は深まらなかった。
勤労統計では、従業員500人以上の大規模事業所はすべて調査するのがルールだが、厚労省は04年から、東京都分を勝手に抽出調査に変えていた。データを本来の全数調査に近づける統計処理も長年怠っていたが、昨年1月、中規模事業所の調査手法見直しに合わせてひそかに補正するようになった。
この日は、補正を始めた時に厚労省の統計部門の責任者だった元職員が委員会に出席した。しかし、全数調査のルールに反している認識はあったものの、データに問題があることは知らなかったという説明に終始し、疑問は解けなかった。
では、省内で問題が認識されたのは、いつから、どの範囲の職員なのか。それはなぜ組織内で共有されず、もっと早く是正されなかったのか。こうした行政の無責任な体制、組織の問題点こそ、国会で厳しく追及しなければならない。
勤労統計の不正は明確な統計法違反であり、雇用保険労災保険の給付が本来より少なくなる被害も生んだ。その原因究明、責任の明確化こそ原点であることを忘れてはならない。