(余録)山口県防府市の牟礼小4年の… - 毎日新聞(2019年2月9日)

https://mainichi.jp/articles/20190209/ddm/001/070/154000c
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山口県防府(ほうふ)市の牟礼(むれ)小4年の安村恒輝(やすむら・こうき)さんはその本の写真に目を見はった。自分のような男の子が川の上に張られた2本の綱につかまりながら宙を渡っている。本の題は「すごいね!みんなの通学路」だった。
これはフィリピンの光景で、隣にはやはり竹ざおを伝って川を渡るインドネシアの写真もある。世界の通学風景を集めたこの本には、高い崖(がけ)をはしごで登る子、水を入れたたらいを頭に登校する子、自分たちの机を運ぶ子の姿もある。
なかには津波で被災した町を通学する日本の子どもの写真もあった。学校へ行くのは当たり前と思っていた恒輝さんはすさまじい通学風景を見ているうちにむくむくと頭に疑問がわき上がった。「みんな、なぜ学校に行くんだろう」
恒輝さんが書いた感想文「夢をかなえるために」は青少年読書感想文全国コンクールで毎日新聞社賞を受けた。その感想文は、子どもが教育を受ける権利を命がけで訴え、ノーベル平和賞を受賞したマララさんの言葉を引用している。
「一人の子ども、一人の教師、一冊の本、そして一本のペンが世界を変える」。恒輝さんは「なぜ学校に行くんだろう」と考えるうち、兄の勧めでマララさんのことを書いた何冊もの本を読んだ。疑問の答えはその言葉に潜んでいた。
最近の恒輝さんはお医者さんになる夢をお母さんに話し始めた。途上国の実情を知り、自分にできることを考えたからという。みんなが学校へ通うのは、いつの日か「夢をかなえるために」だと分かったのだ。