児童虐待 体罰ない社会考えたい - 東京新聞(2019年2月1日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019020102000153.html
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「しつけ」と称した暴行で子どもの命が奪われる事件が後を絶たない。東京都は全国で初めて親の体罰禁止を盛り込んだ条例案を近く議会に上程する。体罰を社会全体で考える契機にできないか。
「しつけで立たせたり、怒鳴ったりした」。小学四年女児が亡くなった千葉県野田市の虐待事件で、傷害容疑で逮捕された父親はそう説明しているという。女児が一年以上前に「父親からいじめを受けた」と学校のアンケートでSOSを発していたのに、命を救うことができなかった事実は重い。
都が条例制定に乗り出したのは昨年、同じように痛ましい虐待事件が目黒区で起きたからだ。骨子案によると、保護者などの責務として「体罰その他の品位を傷つける形態による罰を子どもに与えてはならない」と定めている。
日本も批准している国連子どもの権利条約では、保護者によるあらゆる身体的、精神的暴力から子どもを保護するための立法などを締約国に求めている。体罰を法律で禁止している国は現在、スウェーデンやドイツなど五十カ国以上。日本は保護者の体罰を明確に禁止する法律はない。
家庭内のことに法がどこまで立ち入るべきか、「しつけ」の範囲がどこまでなのか、議論が分かれることがその背景にはあるだろう。民法では明治以来、親の懲戒権が認められている。二〇一一年の法改正でも、文言は変更されたが懲戒権そのものは残った。
江田五月法相(当時)は法務委員会で「親がしつけなどをできなくなるんじゃないかという誤った理解を社会に与える」と削除しなかった理由を説明している。
NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが一昨年約二万人を対象に行った意識調査では約六割がしつけのための体罰を容認している。一方で、法律が人々の意識の変化を促す側面もある。体罰を禁止した国では容認する人の割合は減少し、体罰や虐待の減少が報告されている国もあるという。
児童相談所の体制や子どもにかかわる各組織の連携強化など、事件が起こるたびあらわとなる社会の弱点を補うことはもちろん必要だ。子育てに悩む保護者が孤立を深めることのないよう、支援施策の充実も欠かせない。
そのうえで都の条例案は、子どもたちの幸せのために社会が何ができるか一石を投じているのではないか。法のありようについても議論が深まることを期待したい。