勤労統計不正 速やかな解明が必要だ - 朝日新聞(2019年1月11日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13844044.html
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賃金や労働時間の動向の指標となる毎月勤労統計の調査が、長年にわたって決められた方法通りに行われず、データに誤りがあることがわかった。統計法に基づく政府の基幹統計での信じがたい不正で、行政に対する信頼を揺るがす行為だ。
なぜこんなことが起きたのか。過去のデータにどれだけの誤りがあり、その影響はどこまで及ぶのか。徹底的に調べて速やかに公表するべきだ。
毎月勤労統計は従業員5人以上の事業所が対象で、500人未満は抽出、500人以上はすべての事業所を調べることになっている。全数調査の対象は全国に5千以上あるが、その約3割を占める東京都で、厚生労働省が抽出した約500事業所しか調査していなかった。
このルール違反は04年から続いていたという。何らかの事情があったのかもしれないが、ならば調査方法を変更し、対外的に明らかにするのが筋である。自分たちの都合で、勝手にルールを破ることなど許されないのは言うまでもない。
都内の規模の大きな事業所は比較的賃金が高い傾向にある。こうした事業所が一部しか集計に加えられなかったために、賃金のデータは正しく調査した場合より低くなっていたとみられている。
このデータは、雇用保険労災保険の給付金の上限などを決めるのにも使われる。調査方法を勝手に変えたことで、本来の給付額より少なくなった人が多数いるという。全容の解明と被害の救済を急がねばならない。
看過できないのは、厚労省が昨年1月から、東京都の大規模事業所のデータについて、全数調査の結果に近づけるような統計処理を行っていたことだ。
その時点で、調査方法がルールと異なっており、データに問題があるということに、当然気付いていたはずだ。なのに事実を速やかに公表しなかったことは、組織ぐるみの隠蔽(いんぺい)と言われても仕方ない。
昨年12月20日には厚労相にも報告があがったが、翌21日にはそのことを伏せたまま、従来通りに問題のある統計を公表している。あまりに不誠実で、事態の深刻さを理解していない。
昨年の通常国会厚労省の労働実態調査のずさんさが明らかになり、裁量労働制に関わる法改正が撤回になったことは記憶に新しい。
政府の様々な統計は、政策立案の根拠になるものだ。その大事な統計を扱う自覚と緊張感があまりに欠けている。猛省を求めたい。