(大弦小弦)1997年のクリスマスイブの夜… - 沖縄タイムス(2018年12月25日)

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1997年のクリスマスイブの夜、「首相官邸で比嘉鉄也名護市長が海上基地を容認し辞任表明」との一報が入った。慌てて名護に向かったが、頭の中は「まさかだろ」と混乱した

▼その3日前に行われた基地建設の是非を問う名護市民投票は、「反対」と「条件付き賛成」が市民を激しく二分した。結果は、反対が条件付きを含む賛成を2372票上回った

▼「振興策で仕事が増える」と夫は期待した一方、妻は「家計は大事だけど、子のために基地はよくない」と判断が割れた家庭もある。地縁血縁が重視される地域で、一人一人が望ましい未来を自問して投じた1票。引き裂かれる思いで市民は答えを出した

▼「過半数の意思を尊重する」と条例に盛り込んだのは当の比嘉氏で、これで決着のはずだった。なのにわずか3日で受け入れ表明し、21年たっても続く混迷が始まった

▼その後、新基地の是非が明確に争点となる主要選挙で、県民は1票を行使し反対の意思を示し続けている。だが安倍政権は今回の知事選結果も尊重せず、土砂投入を強行した。1票の重みを政治家自ら軽んじる愚行

▼市民投票のスローガンは「大切なことはみんなで決めよう」だった。問答無用の「政治判断」が混乱と政治不信を助長させている。民主主義を阻む元凶は、一人一人が断ち切るしかない。(磯野直)