就労外国人 政府の生活支援策 主体性の乏しい寄せ集め - 毎日新聞(2018年12月21日)

 
https://mainichi.jp/articles/20181221/ddm/005/070/130000c
http://archive.today/2018.12.21-001338/https://mainichi.jp/articles/20181221/ddm/005/070/130000c

外国人労働者を巡る政策は、出入国管理と社会統合政策が2本柱だ。前者を先行し、後者を後回しにしてきた安易な姿勢がそのまま示されたと言えよう。
政府は、外国人材を受け入れるための総合的対応策をとりまとめた。生活支援策が中心になっている。
改正入管法は、法務省令に内容を委ねられた部分が多く、国会で議論すべき材料が示されてこなかった。とりわけ、外国人労働者の生活支援策は法律の根幹であるべきだった。それが今回、遅れて出てきた。
対応策は計126項目に上る。項目は大きく、医療や生活サービス、社会保障日本語教育、雇用環境の整備などに分かれている。外国人労働者支援がいかに大きな政治テーマであるかがよく分かる。
泥縄対応の限界示した
しかし、来年4月からの労働者受け入れありきを優先させ、体系立った政策になっていない。支援策の策定を後回しにした政府の泥縄対応の限界と準備不足が表れている。
都道府県庁所在地など全国100カ所に「多文化共生総合相談ワンストップセンター」を設置する。約20億円の予算を充てるという。
雇用や医療、福祉など外国人の幅広い悩み相談に対し、国の出先ではなく自治体が対応するプランは現実的だ。多言語での対応を掲げていることも理解できる。
ただし、自治体が手を挙げれば設置が認められるのか、設置場所はどこを想定しているのかなど具体的な形が示されていないことに自治体からは懸念の声が出ている。
多言語に対応するための人材確保策も容易ではないだろう。これまでのように自治体に対応を任せきりにすることは許されない。
対応策の中で、とりわけ不安を抱かせるのは、日本語教育をめぐる施策の不十分さだ。
日本人と外国人が円滑にコミュニケーションがとれる環境を作ることは、安定した暮らしを営むうえで不可欠な要素だ。災害大国である日本で安心して暮らすためにも必要だ。
「特定技能」の在留資格を取得するためには、日常会話以上の日本語能力が求められる。そのための能力判定テストを人材受け入れのニーズが高い9カ国で実施すると対応策は記す。だが、送り出し国で試験をどうやって実施していくのか。そのシステムは説明されていない。
受け入れ後の日本語の習得に関しても施策は不十分だ。放送大学やNHKの日本語教材、さらに夜間中学の活用などを羅列している。
だが、既に自治体やNPOなどが取り組みを進めているものが多い。新鮮味に乏しい。
「特定技能」の資格を取得する労働者は、相当の部分が現行の技能実習生から移行するとみられている。日本語教育にコストをかけずに済まそうとしているとすれば問題だ。一定時間の日本語講習を公的に保障する制度の導入を改めて求めたい。
共生策をもっと明確に
全国に700校近くある日本語学校については、悪質な事業者が存在することを前提に管理の厳格化をうたっている。一方で、多くの外国人を迎え入れる以上、財政的支援によって教師の質を高めるなど後押ししていく方策を探ることも重要だ。
126項目の生活支援策は、各省庁が出してきた政策の寄せ集めに過ぎず、十分に吟味されていない。ワンストップの相談窓口にしろ、日本語教育にしろ、どこが主体的に実施していくのかが不明確だ。
外国人労働者との共生を実現しようとする決意も前面に出ていない。法務省が所管することの限界を示している。外国人を社会に統合させていく施策を担うのにふさわしい組織がやはり必要だ。
増加し、滞在も長期化する外国人労働者社会保障の手立てをどう講じていくかが今後大きな課題になる。長ければ10年にも及ぶ労働者の滞在期間のさらなる長期化も見据え、年金や医療などの制度を構築する必要がある。
例えば「特定技能」の場合、転職した場合の保険証の切り替えなどが複雑になる。対応策を見てもこうした課題に対応し切れていない。企業の従業員が加入する健康保険の対象を海外に住む家族に適用するかどうかの法整備も次の国会に委ねられた。課題の早急な解決が必要だ。
理念を明確にし実現するためにも、支援策を国会で議論し、立法化することを求める。