(私説・論説室から) 想包餃子 - 東京新聞(2018年12月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2018121702000145.html
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「忘れられない中国滞在エピソード」というテーマの作文コンクール表彰式が、中国大使館で行われた。その中に「想包餃子」(ぎょうざを作りたい)と書いた紙を手にした大学生がいた。三本美和(みつもとみわ)さん(22)だった。
三本さんの作文は二〇一六年から約一年間、上海に語学留学した時のこと。現地の人と交流したいと考え、留学仲間と、この中国語を画用紙に大きく書いて公園で掲げてみた。
多くの人は通り過ぎていく。一人の中年女性が足を止め、三本さんたちを見ていた。
すかさず「中国人の生活を体験したいのです」と頼み込んだ。「私は餃子を作るのがうまくない。家もここから遠いけどいい?」
女性は二人と車に乗り、材料を買って高層マンションの自宅に招き入れた。そして、作り方を丁寧に教えてくれた。お礼に二人は、ツナ缶で日本風のおにぎりを作った。
女性は、日中戦争について語り出した。「だから、日本人を好きになれなかった。でも…」と女性は言葉を継いだ。
「お互い憎み合うのは悲しいことだと、今日気がついた。いつでも遊びにおいで」
中国は怖い、韓国は嫌いと言う人が少なくない。そう言う前に、一歩自分から歩み寄ってほしい。何か感じることがあるはずだ。
三本さんは「あの餃子は幸せの味だった」と作文を締めくくった。入賞作品集は日本僑報社から出版されている。  (五味洋治)