<金口木舌>平和を祈る - 琉球新報(2018年12月3日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-843012.html
http://archive.today/2018.12.03-012513/https://ryukyushimpo.jp/column/entry-843012.html

2012年、ジャーナリストの山本美香さん=当時(45)=はシリア内戦の取材中に銃撃され、死亡した。その前年に出版した著書「戦争を取材する 子どもたちは何を体験したのか」(講談社)は小学生向けノンフィクションだ

▼多くの命を奪う戦争の愚かさを、平易な言葉で伝える。生ぬるい爆風、血や遺体、物が焼けるにおい。映画と現実の戦争の違いを挙げ「これらの感覚は何年たっても忘れることはできない」と記した
▼1943年、米軍によって奄美大島沖で撃沈された航路船・嘉義丸。今年10月、初対面した体験者らの記事が掲載された。記事を読んだ鹿児島市の男性が本紙に連絡し、その証言をこの欄で紹介した。これが新たな呼び水になった
▼身内に体験者がいると、別の読者から情報が寄せられた。11月26日、体験者の真栄田栄子さん(93)=今帰仁村=と仲本康子さん(77)=本部町=の初対面がかなった
▼真栄田さんは共に乗船した親族4人を失った。その後、わずかな物音で寝床から飛び起きるようになった。当時2歳半の仲本さんは攻撃直後の記憶はないが、海や川を恐れ今も入ることができない。心の傷は残る
▼山本さんの著書にも、テロの現場を体験し不眠に苦しむ8歳の少年が描かれている。「生きていて良かった」と互いの手を重ねた嘉義丸の2人。平和を祈り、傷を温め合うように見えた。