裁判所で「車いす差別」 警備強化で配慮欠く入庁検査 - 東京新聞(2018年11月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201811/CK2018112902000192.html
https://megalodon.jp/2018-1130-1007-49/www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201811/CK2018112902000192.html

全国の裁判所で入庁者への所持品検査が実施されている。基本、金属探知機付きのゲートをくぐるが、車いす利用者はゲートの幅が足りずに通り抜けられない。そのため、体に触れられたり、荷物を取り出されたりしての検査を受けている例もある。今年一月から検査を始めた大阪高裁・地裁では十五日、車いすの利用者らが、検査が障害者にとって差別的だとして、抗議と改善を書面で申し入れた。 (三浦耕喜)
「男性の警備員が、ボディーチェックで車いすに乗った女性の体をあちこち触っている」。滋賀県長浜市から電動車いすに乗って傍聴に来た頼尊恒信(よりたかつねのぶ)さん(39)は、わが目を疑った。
明らかにセクハラだと思った頼尊さんにも、警備員から身の安全を損ないかねないことを求められた。ドライバーなど電動車いすを調整・応急修理する付属工具を「武器として使うこともあり得る」として、退庁まで取り上げられた。「さまざまな路面を走る電動車いすはねじなどが緩みやすい。工具を常備し、万一に備えなければ安全にかかわる。自動車に工具が付いているのと同じなのに」
さらに屈辱的だったのは、手荷物検査だ。警備員に断りもなくかばんを開けられ、入れていた下着があらわになった。「人目の多い玄関です。人間扱いされていないと感じた」。言葉に無念さが響く。
警備員は頼尊さんの食事道具も、もむようにチェックした。自分の障害に合わせ改良を加えた食事道具を、多くの障害者は持っている。その警備員は、直前に靴を触ったばかりだった。
警備員は取り出した荷物を元の場所に戻さなかった。動きが制約される障害者は、物が決まった場所にないと、取り出す時にヘルパーらに指示できない。
警備が強化されることは聞いていた。それを見越して時間をやりくりし、いつもより一時間早く家を出た。それが、こういう対応をされることになるのかと、やりきれない思いで裁判所の建物に入った。
昨年六月に仙台地裁で判決の宣告を受けていた被告(保釈中)が刃物を振り回し、警察官二人に切り付ける事件が発生したことなどを受け、最高裁は一般来庁者を中心に所持品検査を行うよう全国の地裁と高裁に通知。仙台や東京、大阪などで導入されている。急いで導入したため検査が始まった時期や手法は裁判所によって違いがある。
しかし、障害がない人は基本、ゲートをくぐるだけなのに対し、綿密にチェックされる車いす利用者の負担は心身ともに軽くない。車いす利用者には、工具や着替えなどたくさんの携行品が入った複数のかばんを車いすに結んでいる人が多い。障害の知識がないと、何らかの道具を紛れさせているようにも見えるし、体に補助器具を取り付けていると、服の中に何かを隠し持っているようにも見える。
しかし、脳性まひで車いすを利用しており、書面を大阪地裁に手渡した大阪府豊中市の中田泰博さん(46)は言う。「手に持ってかざす使い方の金属探知機もあるのに使わない。警備が必要だというなら、拙劣なやり方はやめてほしい。裁判はすべての国民に開かれており、その国民には私たちも含まれているはず」と強調する。
これに対し、大阪地裁は「申し入れ書の内容を確認の上、適切に対応したい」としている。
障害者の人権問題に詳しい大川一夫弁護士(大阪市)は「その人の立場を考えたやり方をとるのが『合理的配慮』というもの。そうでなければ、人格権や名誉を裁判所が傷付けることになる」と話している。