入管法改正案 議論する土台が崩れた - 東京新聞(2018年11月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018112202000169.html
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外国人労働者を増やす入管難民法改正案は急ごしらえで、生煮え感が強い。特に技能実習生の失踪のデータさえ読み替えた。劣悪な待遇の実習制度を温存する法案の土台を崩す事態といえる。
山下貴司法相は二十一日の国会で「心からおわびする」と陳謝した。既に法務省技能実習制度の問題点を検証するチームを立ち上げている。同省の驚くしかない集計の誤りだ。
技能実習生の失踪は昨年だけで七千件を超え、居場所が確認できた約二千九百人から聞き取りをした。政府は「より高い賃金を求めた失踪が約87%」と説明したが、実際には低賃金による失踪が約67%だった。言葉の感じ方がまるで違う。
そもそも調査時に「より高い賃金を…」の項目はなかった。ちなみに失踪前の月額給与は「十万円以下」が56・7%だ。賃金不払いの違法行為も契約不履行の低賃金も横行する世界だ。
他の項目もある。「指導が厳しい」が12・6%、「暴力を受けた」が4・9%。「その他」が15・3%あるが、内訳は職場環境や労働条件への不満、人間関係などだ。失踪という不都合な出来事を政府は、あたかも実習生側の問題としてきたが、これら並ぶデータは雇用主側の不適切な問題に起因するのでないのか。
立憲民主党山尾志桜里衆院議員は二十日、報道陣に「偽のデータで空っぽの法案を作り上げたのに、成立ありきで突き進んでいる」と批判した。この意見には同感だ。今回の法案で入国する外国人が同じ悲劇に遭わない保証はどこにもないからだ。
とくに技能実習生の大半は来日前、母国の送り出し機関にお金を払う。金額は「百万円以上〜百五十万円未満」が最も多く、38・3%。親族や銀行からの借り入れが多い。この問題をどうするのか。
そして実習生は悲惨な待遇に耐えかねて逃げ出す−。決してわがままではなく、人間としての尊厳、生きるすべのためである。この現実を見ず、法案を通すのは、およそ無理がある。
移民国家スイスでは「われわれは労働者を求めたが、やってきたのは人間だった」という作家の言葉がある。法案では新しい在留資格「特定技能1号・2号」を設ける。この人々が実習生のような非人間的な扱いを受けることがあっては決してならない。労働者である前に、人間を受け入れる、この保障がないと話は進まない。