入管法審議へ 政府の前のめりを正せ - 朝日新聞(2018年11月13日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13765555.html
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外国人労働者の受け入れを拡大するための出入国管理法の改正案が、きょう安倍首相も出席して衆議院で審議入りする。
社会にいかなる影響が及ぶのか。外国人の人権をどうやって守り、安心して働いてもらうのか。幅広い観点から丁寧な検討が求められるが、それを空洞化させかねない要因がある。
改正案には、国会のチェックを経ずに改廃できる省令で、後から定めるとされている事項が極めて多いことだ。
外国人の在留資格として新たに「特定技能」を設ける。それが今回の改正の柱だ。だが受け入れる業種・分野はもちろん、政府が「上限5年」と説明している在留期間も、正式には省令で決めるという。
これで日本社会の将来像についてどこまで突っ込んだ議論ができるのか、野党から疑問の声があがるのは当然だ。
同様の例は他にもある。
たとえば、特定技能者には同じ職種内での勤務先の変更を認める▽日本人と同等以上の報酬を支払う▽悪質なブローカーを排除する――など、政府が新制度の特長だとアピールしていることは、いずれも法律ではなく省令で定めるという。
住宅確保や日本語習得の支援は、外国人労働者だけでなく地域に住む人々にとっても重要な課題だ。受け入れ企業がそれらを盛りこんだ支援計画を作る手はずになっているが、法案はその計画についても「省令で定める基準」への適合を求めるだけで、丸投げ状態になっている。
一方で、家族の帯同を認めない、雇用契約がきれたら確実に出国させる措置をとる――などは、法案に明記されている。
改正法案の目的は「外国人の在留の公正な管理を図る」こととされ、共生や支援といった理念は掲げられていない。この姿勢が、法案の随所にあらわれていると見るべきではないか。
外国人労働者問題はすでに国会で何度か取りあげられたが、「法案成立後に対応する」という政府答弁が目立った。白紙委任せよと言わんばかりの態度を認めるわけにはいかない。
先の通常国会の焦点だった高度プロフェッショナル制度やカジノの運営に関しても、政令や省令に委ねられた事項が多く、今後に不安を残した。
全体像を正しく理解したうえで、多様な目で法案を審査し、必要に応じて修正を施す。それが本来の国会審議のあり方だ。前のめりの政府を正し、将来に禍根を残さない。与野党を問わず、立法府がその役割を全うできるかどうかが問われている。