(筆洗)中央省庁による障害者雇用の水増し - 東京新聞(2018年10月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018102402000118.html
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締め切りが迫っているのにまったくアイデアが浮かばない。作家にとっては冷や汗ものの状況であろう。なんとしても、原稿用紙のマス目を埋めなければならない。
とにかく行数を増やすための方法にこんなのがあるそうだ。作品の中に兵隊を描く。整列させ、点呼を取る。「一」「二」「三」「四」…。そのたびに改行する。十人の兵隊がいれば、これだけで十行。もっと増やしたければ、「もう一度!」と書けばよい。
武者小路実篤の「秘技」と聞いたことがあるが、真偽のほどはよく分からぬ。「先生、かんべんして」という編集者の声が聞こえてきそうだが、これに比べれば、作家の「点呼」がかわいく思えてくる、中央省庁による障害者雇用の水増しである。
障害者をきちんと雇用しているという体裁のためだろう。対象外の職員三千七百人を不正に計上していた。その分、本来、雇用されるべきだった方がいる。それが単なる水増しではなく、障害者の心まで傷つける行為だとなぜ誰も気がつかなかったか。
調査報告書によれば、在職していない人、視力の弱い人に加え、既に亡くなっていた人まで障害者としてカウントしていたという。
国の機関の法的雇用率2・3%の数合わせのために、この世になき人まで動員していたとはでたらめな「点呼」が過ぎる。猛省と厳格な対応を。「もう一度!」など断じて許されぬ。