トリチウム汚染水/福島県知事選で議論深めよ - 河北新報(2018年10月18日)

https://www.kahoku.co.jp/editorial/20181018_01.html
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東京電力福島第1原発廃炉作業を巡って、トリチウム水の処分方法が大きな問題になっている。国は8月、福島県内で公聴会を開いたが、海洋放出に対しては反対の意見が相次いだ。
海中に拡散させることは、新たな「風評被害」をもたらしかねない。否定的な意見が多いのは当然だろうが、永久にタンクに貯蔵しておくわけにはいかないのも事実。
近い将来、処分方法が本格的に議論されるのは確実な情勢なのだから、福島県も検討を進めておく必要がある。
選挙戦が繰り広げられている福島県知事選(28日投開票)は、その得難いチャンスだろう。各候補の陣営は汚染水問題を積極的に取り上げ、議論を巻き起こしていく姿勢が求められる。
1〜3号機がメルトダウン炉心溶融)事故を引き起こした福島第1原発は、放射性物質で汚染された水に悩まされている。原発構内のタンクに保管されている水の量は既に90万トンを超えた。
「ALPS」と呼ぶ装置で処理して放射性物質を取り除いているが、完全にゼロにできるわけではなく、一部は残る。中でもトリチウムはほぼそのまま残ってしまう、やっかいな物質。
トリチウム三重水素と呼ばれる水素の放射性同位体半減期は12.3年で、ベータ線を出してヘリウムに変化する。原子炉の中で生成され、酸素と結び付いてトリチウムの水になっているが、通常の水(軽水)と化学的な性質がほとんど変わらない。そのため除去が難しく、各地の原発で以前から放出されていた。
福島第1原発から放出する場合、水を加えて基準値以下まで濃度を薄めることになるだろうが、風評被害を心配する漁業者らはそれでも簡単に了解しないだろう。
福島県知事選に立候補した4氏もおおむね、海洋放出に慎重もしくは反対の立場を示している。
海洋放出に地元の理解が得られないのであれば、別の処分方法を検討するしかない。経済産業省が設置した汚染水処理対策委員会は一昨年、海洋放出に加えて「地層注入」「水蒸気放出」「水素放出」「地下埋設」を示して技術的に評価している。
海洋放出と決めつけず、幅広く検討していくべきだ。今まで原発から放出されていたとはいえ、福島第1原発でこれから行えば、与える影響は格段に大きくなる。
トリチウムは確かに除去が難しいが、技術開発に取り組む国内の大学もある。新技術の実用化に力を注ぐのも、一つの解決方法ではないか。
トリチウムの安全な処分は無論、東電と国の責任だが、福島県ももっと関与していくべきだ。どんな方法になろうと、最も影響を受ける立場にある。まず政治の場で本格的な議論を始め、県内各層に広げていくのが望ましい。