消えた記者 世界の言論が危うい - 朝日新聞(2018年10月18日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13728162.html
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言論の自由は最も基本的な人権の一つである。権力からの圧力や暴力によって脅かされることは断じて認められない。
サウジアラビア政府を批判してきた記者が行方不明になり、国際社会を揺るがせている。
米国を拠点に活動するサウジ国籍のジャマル・カショギ氏である。今月初めにトルコのサウジ総領事館に入ったあと消息を絶った。トルコ当局は館内で殺害された可能性があるとみて捜査している。当初は関与を否定していたサウジ政府も、総領事館の捜索を認めた。
英仏独3カ国の外相は「重大な懸念」を示す声明を出し、サウジとトルコが協力して事実を解明するよう求めた。サウジ政府は、国際社会が納得できるよう説明責任を果たすべきだ。
外相声明は「表現や報道の自由、ジャーナリストを守ることは優先事項だ」と強調した。
世界を見渡せば、報道の自由はいま、あちこちで危機に直面している。
米国の非営利組織「ジャーナリスト保護委員会」によると、世界で投獄されているジャーナリストは昨年末で262人に上る。過去最高の数字だという。トルコ、中国、エジプトの上位3カ国で半数以上を占める。
独裁国家や紛争当事国だけではない。1年前、地中海の島国マルタで首相の資産隠しを追及していた記者が殺された。
さらに民主主義が根づいているはずの先進国でも、報道の自由が軽視されはじめている。憂慮すべき事態である。
米国のNGO「フリーダムハウス」は昨年、「報道の自由の暗い地平線」と題する報告書を発表した。
この組織が数値化した世界全体の報道の自由度は、過去13年で最低の水準になった。権威主義的な国に加え、日本を含む主要な民主国家でジャーナリストやメディアへの圧力や脅しが増している現状を映している。
メディア規制の監視や記者の保護を目的とするNGO「国境なき記者団」は「政治指導者があからさまに助長する報道機関への敵意」に警鐘を鳴らす。
代表格がトランプ米大統領だろう。言論の自由を主導してきたはずの米国で、意に沿わない報道を「フェイク(うそ)ニュース」と決めつけ、報道機関は「国民の敵だ」と言い放つ。
トランプ氏はサウジ記者の件について、「国王や皇太子は知らなかったようだ」と、指導部を擁護するような発言をしている。最大の武器売却相手だからといって、うやむやな幕引きに手を貸すことは許されない。