松橋事件 弁護団「生きているうち無罪確定を」 - 毎日新聞(2018年10月12日)

https://mainichi.jp/articles/20181013/k00/00m/040/152000c
http://archive.today/2018.10.13-003030/https://mainichi.jp/articles/20181013/k00/00m/040/152000c

再審開始を告げる最高裁決定に「ようやくここまで」
33年訴え続けた無実の叫びが再審の重い扉を押し開いた。1985年に熊本県松橋(まつばせ)町(現宇城市)で男性が殺害された「松橋事件」の再審開始を告げる最高裁決定が届いた12日、殺人罪などで懲役13年の刑に服した熊本市の宮田浩喜(こうき)さん(85)を支えてきた弁護士らは「ようやくここまで来た」と感無量の面持ちで語った。しかし、当の宮田さんは認知症が進み、喜びを分かち合うことができない。弁護団は「生きているうちの無罪確定を」と訴える。
熊本市中央区の県弁護士会館の一室。報道陣を前に三角恒(こう)・主任弁護人は「宮田さんの体調が思わしくない中、再審確定が万一間に合わなかったら……と考えたこともあった。よかった」と笑みを浮かべた。
ただ素直には喜べない。事件の年に逮捕され、一審途中で無罪主張に転じてから33年、2012年3月の再審請求から6年半。三角弁護士は再審決定までの長い道のりを振り返りながら「検察は理由もなく抗告や特別抗告を繰り返し、引き延ばしてきた」と憤り「宮田さんの年齢を考えると速やかに再審を終結させてほしい」と語気を強めた。
時間との闘いだった。出所後、脳梗塞(こうそく)を患った宮田さんは後遺症で寝たきりになり、認知症の症状も進む。昨年9月には再審請求人の一人で、宮田さんの無罪を信じ続けてきた長男の貴浩さん(当時61歳)が病気で亡くなった。
記者会見終了後の午後7時過ぎ、三角弁護士らは宮田さんが入所する熊本市西区の高齢者施設を訪れ、吉報を伝えた。認知症の宮田さんの後見人として再審請求した衛藤二男(つぎお)弁護士によると、ベッドに横になったままの宮田さんの表情から感情を読み取ることはできなかった。それでも「おめでとうございます、裁判勝ちましたよ」「無罪ですよ」と何度も声をかけたという。
面会後、三角弁護士は「今日のような形でしか報告できなかったことには怒りともいえる感情がある。本来あってはならないことで、捜査機関には自戒してほしい」と穏やかな口調に怒気をにじませた。【清水晃平、中里顕、城島勇人】