<ウチナーンチュ 心の痛み 沖縄知事選を前に>(下)「病巣」放置 続く事件 - 東京新聞(2018年9月28日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201809/CK2018092802000138.html
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沖縄県恩納(おんな)村。知事選の告示から一週間後の二十日、山を貫く県道104号の脇に、みずみずしい花や菓子が供えられていた。二〇一六年四月、元米海兵隊員に暴行目的で襲われ、殺された二十歳の女性の遺体が遺棄された現場だ。手を合わせた那覇市の自営業の初老男性はつぶやいた。「いつまでこんな事件が繰り返されるのかね」
この日、殺人罪などに問われた元海兵隊員で元軍属のケネス・シンザト被告(34)に、福岡高裁那覇支部は一審と同じ無期懲役を言い渡した。「基地があるがゆえに起こること」と訴えてきた女性の父親は悲痛な思いをコメントに込めた。「私たちの心には埋めることのできない大きな穴があいています。悲しみに耐えることができないときもあり、涙が出てきます」
米軍人や軍属らによる事件事故は後を絶たない。日本の警察が米軍人らを捜査する際、日米地位協定の制約が背景にあることが長年指摘されてきた。シンザト被告は基地外に住んでいたため日本側が身柄を押さえられたが、犯人が基地内に逃げ込んでしまえば、警察が身柄を確保することや証拠を押さえることが難しい。米軍基地が集中する沖縄では、表沙汰になる事件事故は氷山の一角とされる。
「基地があったら必ず被害がある。それを放置していることが一番の問題なのに」。高校生だった十七歳の時に米兵に暴行された被害を公に証言している金城葉子さん(64)は怒りを込めた。「本土の人は分からないでしょうけど、病巣は一向に完治していないんですよ。でも地位協定も何も改善されない」
シンザト被告の事件後、日米政府は軍属の範囲を絞る合意をした。日本側の権限が及ぶ範囲を拡大するとの触れ込みだったが、被害者遺族の代理人の村上尚子弁護士は指摘する。「実態はほとんど変わらない。基地問題を沈静化させようとのアピールにすぎない」
「パンパン、パパパパ…って。演習で銃の発射音が聞こえたら作業小屋にこもるよ。流れ弾が飛んできたと聞いたとき、またかと思った」。米軍キャンプ・シュワブに隣接する名護市数久田(すくた)の農地。果樹農家の久高(くだか)幹夫さん(53)は事件を振り返った。
六月二十一日、米軍の重機関銃から発射されたとみられる弾が、付近の農作業小屋の窓を貫通した。一つ間違えば死傷者が出ていた。まだ米軍は認めていない。県によると、本土復帰後だけで流れ弾などの事故は二十九件目。久高さんは「米軍基地はほかに行ってほしいし、辺野古の新基地も何でここじゃないとだめなのか。本当は国全体の問題だよね」。
流れ弾以外も事故は頻発し、昨年十二月には、宜野湾(ぎのわん)市内の小学校校庭に米軍ヘリの窓が落下した。一昨年十二月には名護市沖で垂直離着陸輸送機オスプレイが大破。だが、いずれも日本側は検証できない。
県道104号では、かつて道をまたいだ米軍の実弾演習が行われていた。一九九五年の少女暴行事件後、沖縄の「負担軽減」の一環として、訓練は本土に移ったが、近くに住む農業外間優(ほかままさる)さん(68)はぼやく。
「今でも夜まで機関銃の音が響いて、ヘリもワーワーうるさい。もし何かあっても、米軍に何もできない。そんな状態は変えないといかん」。いつしか手ぶりが大きくなった。
幾重もの痛みの歴史を胸に、約百十六万の県民有権者が投票に臨む。 (西田義洋、井上靖史、原昌志が担当しました)