戦争、みんな犠牲者 銀獅子賞「運命は踊る」 サミュエル・マオズ監督 - 東京新聞(2018年9月27日)

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昨年のベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した映画「運命は踊る」が二十九日から公開される。イスラエルを舞台に、兵役に就いている長男の戦死という誤報をきっかけに大きく運命が展開していく家族の物語だ。同国出身のサミュエル・マオズ監督(56)は「戦争とホロコースト(大量虐殺)のトラウマ(心的外傷)にとらわれた社会を、国民みんなの問題として描きたかった」と話す。 (酒井健
マオズ監督は二十歳の時、レバノン内戦に戦車の砲手として従軍。その体験を基に戦場の残酷さを描いたデビュー作「レバノン」で、二〇〇九年に同映画祭で金獅子賞に輝いた。それ以来という今作でも脚本を手掛けた。国際的に評価されたことで、日本でも全国上映されることになった。
建築家ミハエル(リオール・アシュケナージー)のもとに、十九歳の長男ヨナタンヨナタン・シライ)の戦死の報が届くが、間もなく誤報と判明。激怒したミハエルは軍にヨナタンを呼び戻すよう要求する。
一方、通行者もまれな検問所に勤務するヨナタンは気だるい日々を送っていたがある日、思わぬ事件を起こし、上官から極秘の処理を指示される。その上官は「われわれはまぎれもなくここで戦争をしている」と心境を吐露する…。
マオズ監督は「トラウマにとらわれたイスラエルは、安全保障のカードを掲げて(パレスチナなどとの間に)不必要な緊張を作り出している」と国をとりまく歴史的な背景を語る。そうした状況を象徴するようなこの場面について「本来は必要のない場所にある検問所。だが、そこにあることで何となく不穏な雰囲気が包み、そこに悲劇が生まれる」と解説する。
「本当は国も個人も、世代を超えて引き継がれたトラウマと相対して『なぜこの戦争が必要か』と内省しなくてはいけない」と訴える。
長男に降りかかった悲劇に直面するミハエルと妻ダフナ(サラ・アドラー)。悲しみや不条理に翻弄(ほんろう)される家族だが、終盤かすかな救いも示される。「人はどのように痛みを抱え、乗り越えようとするのか。家族の愛や葛藤を描いた普遍的な物語にもなった」
前作では戦車での市街戦を通じ、戦場そのものを描いた。今作は戦闘シーンこそないが、マオズ監督は自身がこだわる映像や構成の妙から、戦争の痛みを浮き彫りにしている。「私の映画に善悪はない。みんなが戦争の犠牲者だ」と強調した。