自民党総裁選 国民の不信 残したまま - 東京新聞(2018年9月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201809/CK2018092102000128.html
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政治部長 清水孝幸
「権力は腐敗しがちであり、絶対権力は絶対に腐敗する」。英国の歴史家、アクトン卿の有名な言葉だ。異例の長期政権を目指す安倍晋三首相は自民党総裁選で、国民が森友・加計問題で抱いた不信と向き合い、説明責任を果たすべきではなかったのか。
なぜ、権力は腐敗するのか。権力を利用しようと擦り寄る者が現れる一方、仕える者は権力者の顔色をうかがって意向を忖度(そんたく)し、そして、もの申せなくなる。すると、権力者が喜びそうな方向にばかり物事が進み、公平、公正が失われる。
モリカケ問題はその典型に映る。安倍首相の「腹心の友」が理事長を務める大学に五十二年ぶりの獣医学部が新設され、妻、昭恵氏が一時、名誉校長を務めた学校法人に国有地が有利な条件で売却された。首相は自らの関与を否定するが、少なくとも行政に首相への忖度が働いたのではないか。国民の多くは首相の説明にいまだ納得していない。
しかし、首相がこの問題を自ら語ることはほとんどなかった。東京・秋葉原の最後の訴えでは「批判だけしていても何も生みだすことはできない」と、批判を嫌う本音をのぞかせた。石破茂元幹事長も当初、この問題を念頭に「正直、公正」をスローガンに掲げたが、党内から「個人攻撃だ」と圧力を受け、「モリ」「カケ」の名を挙げた批判を控えた。議論は深まらず、国民の不信は解けなかった。
石破氏支持の地方議員が首相官邸の幹部から恫喝(どうかつ)されたと公表し、石破派の閣僚が辞任を求められたとされる問題も発覚した。自民党は報道機関に「公平・公正」を要請したが、総裁選自体はどうだったのか。
かつて似た構図の総裁選があった。一九七〇年、四選確実の佐藤栄作に小派閥の三木武夫が挑んだ。三木は「私は何ものをも恐れない。ただ、大衆のみを恐れる」と長いものに巻かれ、ものを言わない空気を批判した。石破氏は三木の役割を果たせたのか。
長期政権は強い権力を生む。首相はあと三年の任期を得た。政権が続けば来年十一月に歴代内閣で最長になる。「不公正」の疑いを残したまま「絶対権力」の領域に近づく。