自民党総裁選 憲法 改定ありきは視野狭い - 北海道新聞(2018年9月15日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/228499
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自民党総裁選で憲法をめぐる2候補の主張は明らかな違いを見せている。
安倍晋三首相は現在の9条の条文を残したまま、新たに自衛隊の存在を明記する考えを示している。
戦力の不保持を規定した9条2項と矛盾する可能性がある。
石破茂元幹事長は9条2項を削除した上で、自衛隊を戦力として位置づける案を支持する。
日本が戦後一貫して掲げてきた憲法の平和主義を損ねかねない。
理解しがたいのは、両候補とも憲法を変えることを前提に議論を進めていることだ。
いますぐ憲法を変えるべきだという世論の盛り上がりは見られない。ほかに優先すべき政治課題はたくさんある。
改憲ありきでは論戦の幅が狭くなる。現憲法をどう生かすかという視点が大事だ。
きのうの日本記者クラブでの討論会で首相は、憲法学者らに自衛隊違憲論があることを念頭に「自衛隊の諸君が誇りを持って任務を全うできる環境をつくることが私の責任だ」と述べた。
自衛隊員は、首相が言うほど誇りを持てずにいるとは思えない。災害対応などで、国民の信頼が高まっているのが実際ではないか。
石破氏は「いま国民で自衛隊違憲と言うのは1割もいない」と首相に反論した。自衛隊違憲論があることを根拠とした首相の改憲論にはやはり無理がある。
首相はまた、これまで国民投票を通して国民が意見表明する機会がなかったことを問題視する。
そのような権利を声高に主張する国民がどれだけいるだろう。国民投票が行われなかったこと自体が、憲法を変える必要がないという意思表示ではないか。
それでも、秋の臨時国会自民党として改憲案提出を目指すという。3月に集約した4項目の改憲案は、党内の議論がまとまらず、正式な機関決定を経ていない。拙速と言わざるを得ない。
石破氏は、9条について時間をかけて議論すべきだとする一方で、災害時に国民の権利を制限する緊急事態条項や参院選の合区解消は急務だと主張する。
これらは災害対策基本法公職選挙法の枠内で解決できる問題である。改憲しなければ実現できない問題ではない。
憲法99条は公務員の憲法尊重擁護義務を規定している。まずは現憲法でできることは何かを論じるのが国会議員としての責務だ。