「18歳成人」で詐欺被害増加!?若者への経済リテラシー教育が急務だ - ダイヤモンド・オンライン(2018年9月6非)

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成人年齢が20歳から18歳に引き下げることが閣議決定された。これに対して若者の責任感の欠如などデメリットばかりが取り沙汰されている。そんな中、「今こそ若者の金融リテラシーを育むチャンス」と語るのは、高校生の“金融知力”を競う「エコノミクス甲子園」を主催するNPO法人金融知力普及協会事務局長の鈴木達郎氏だ。(清談社 岡田光雄

140年ぶりに成人年齢改正 グローバルスタンダードに
6月13日、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる改正民法が、参院本会議で自民、公明、維新などの賛成多数により可決・成立した。日本では約140年ぶりの成人年齢の見直しだが、W杯開幕の前日に“しれっと”決まり、ちまたでは「いつの間にか可決されていた」という声も多い。
今回の改正案は、国民投票法や選挙権を18歳以上に引き下げた公選法改正の流れの中で進んできた経緯があるが、可決により18歳は次のことができるようになった。

  • 親の同意なくローンなどを組む
  • 携帯電話やクレジットカードの契約
  • 民事裁判を起こす
  • 公認会計士行政書士など各資格取得
  • 水先人を養成する講師や社会福祉主事などになる
  • 民生委員と人権擁護委員の資格取得
  • 10年パスポートの取得
  • 外国人の帰化
  • 性別変更の審判請求
  • 女性の結婚(16歳から18歳に引き上げ)などだ。

日本政府の狙いとしては、少子高齢化が進む中で経済活動人口を増やしたい、将来的には18歳からも年金を徴収したい、国際基準にそろえたいといったところだろう。
18歳を成人としている国はイギリス、イタリア、ドイツ、フランス、オーストラリア、州によって異なるがアメリカとカナダなども。先進国では「18歳成人」がスタンダードなのだ。
「こうした国際的な状況もありますし、可決・成立された以上は、ただ手をこまねいているわけにはいきません。今こそ、未成年のうちから金融リテラシーを身に付けるいい機会といえます」(鈴木達郎氏、以下同)
18歳の誕生日の翌日に 消費者トラブルの可能性も
今回の改正案で、最も物議を醸しているのが「契約」に関する懸念だ。
「未成年者が行った契約は親権者の同意がない場合、原則取り消すことができますが、成人になるとそうもいきません。悪質商法対策として改正案の中には、不安をあおる商法や恋愛感情を利用するデート商法などを取り消しできる規定は盛り込まれているものの、新成人を保護するには十分とはいえません」
国民生活センターによれば、18〜19歳の相談件数は2353件だが、20〜22歳になると3544件と、およそ1.5倍に急増している(2016年4〜9月までの件数)。つまり新成人になった途端、相談件数が跳ね上がるのだ。
「今の時代のように個人情報が筒抜けの状況では、成人を迎えた誕生日の翌日に、怪しい業者から“年利18%確定で元本保証”といったような詐欺まがいのDMが届くこともあるでしょう」
今回、成人年齢が18歳に引き下げられたことで、被害者年齢層も下がるのは必至だが、正直なところ18歳も20歳もそこまで人間としての成熟度や経験値、判断力などに差はないだろう。
つまりこれは年齢的な問題ではなく、日本人の金融リテラシーのレベルの問題なのだ。
会社依存から脱却し 積み立てでコツコツ資産作り
金融リテラシーを高める必要性は、自己防衛のために限った話ではない。
トマ・ピケティ著『21世紀の資本』によれば、日本の国民所得の約70%は「労働所得」、約30%が「資本所得」となっている。前者は賃金として会社から受け取る所得で、後者は株式配当や利子などで得られる所得だが、日本では「労働所得」の比率が高く、カネを上手に回せていない状況といえる。
アベノミクス効果で株価は上がったものの、賃金面では好景気を実感できなかったという世論が大半でした。いくら株価が上がったところで、株を買わなければ恩恵を受けられません。逆に言うと、しっかりと投資をしていれば株高の恩恵を受けて、例えば海外旅行にだって行けたわけです」
国が推進する「働き方改革」という旗印のもと、日本企業の間で副業解禁の動きが広がってきていることを見ても、企業が従業員に対してこれ以上の賃金を支払うのが困難なことは明らかである。
では、具体的にどのようにして資本所得の比率を上げていくかだが、鈴木氏は一例として、リスクの高い個別銘柄ではなくETF日経平均などの指標に投資できる金融商品)のような投資信託をコツコツ積み立てることを挙げる。
「以前、沖縄の高校生に金融について教える機会があり、長期投資のバーチャルトレードを開発しました。これは過去10年間の日本経済のチャートを40分間で体験するというシステムです。個別株を買った子たちは損ばかりしていましたが、ひたすら日経225を買い続けた子は元手金1000万円を1400万円にすることができたのです」
将来的に年金や退職金も当てにならない中、金融経済の知識を深め、リスクの少ない金融商品と長期的に付き合っていくことで、老後に核となる資産を残すことも必要なのだ。
アメリカでは中高で「経済」の授業が日本は経済・金融教育の後進国
成人年齢が18歳に引き下げられた今、具体的にどのような金融教育を行っていけばいいのだろうか。
例えばアメリカでは、クレジットカードの利用・返済履歴などで“信用力”を示す「クレジットスコア」と呼ばれる基準がある。300点から850点(数字が高い方が優れている)で格付けされ、この点数によってクレジットカード入会や賃貸物件入居の審査が行われるほか、なんと就職や結婚にも影響するといわれている。
アメリカでは、個人のクレジットスコアを第三者でも10ドル程度払えば簡単に閲覧できてしまいます。そのため中学校、高校ではクレジットスコアについての勉強が始まり、科目名が社会(公民)ではなく、“経済”という授業が始まるのです」
こうしたアメリカ社会が健全かという問題はさておき、金融教育の面で日本が立ち遅れていることは間違いない。
「実は日本の現行の高校の教科書にも経済のことは結構ページを割いて書いてあり、それを学ぶだけでも最低限の知識は身に付くはず。でも、そのパートに入る前に学期が終わってしまうと聞きます。大学受験でも政経を選択しない限り、経済問題が出ることもなく、学校の社会科の先生も経済についてはよく知らないというケースも多いようです」
また、学校教育の場だけでなく、家庭においても金融教育の土壌は育っていない。
「日本では、“お金について話すことは、はしたない”という風潮がまだあり、親は家計についても子どもにそれほど話しません。ただ、お金は生きていくための道具として避けて通れないものですし、お金もうけの意味ではなく自分が被害に遭わないためにも教えておく意義はあります。そもそも、もうけること自体も全く悪いことではありません」
成人年齢の引き下げは吉と出るか凶と出るのか、それが親と学校の教育にかかっていることは言うまでもない。