(余録)「若さる時ねー 戦争ぬ世/若さる花ん 咲ちゆーさん」… - 毎日新聞(2018年9月2日)

https://mainichi.jp/articles/20180902/ddm/001/070/156000c
http://archive.today/2018.09.02-012116/https://mainichi.jp/articles/20180902/ddm/001/070/156000c

「若さる時ねー 戦争(いくさ)ぬ世/若さる花ん 咲ちゆーさん」。沖縄民謡「艦砲ぬ喰(く)ぇー残(ぬく)さー」は、こう歌い出す。若い時には戦争ばかりで、青春の花は咲かなかった。沖縄戦で家族を失った悲しみと平和への願いがこもる。
「喰ぇー残さー」とは、地形まで変えた米軍による艦砲射撃の「食べ残し」、すなわち「生き残り」を意味する。1970年代、作詞・作曲を手がけた比嘉恒敏(ひがこうびん)さんの娘4人で作る「でいご娘」が歌ってヒットした。
この歌がテーマ曲のように使われるのが、一人語りの芝居「島口説(しまくどぅち)」だ。主人公は沖縄戦を生き抜き、民謡酒場を営むスミ子。本土からの観光客に、離島の苦しい生活や米軍統治下の土地接収など波乱の半生を語るなかで、沖縄の戦中・戦後史が浮かび上がる。
初演は、沖縄返還から7年後の79年。離島に育った劇作家、謝名元慶福(じゃなもとけいふく)さん(76)が自身の体験や聞いた話を基に2晩で書き上げた。今夏、国立劇場おきなわで32年ぶりに上演された。
初演から約40年たち、謝名元さんはプロデューサーと書き直しも考えたが、やめた。沖縄に米軍専用施設が集中する理不尽、なくならない基地絡みの事件や事故。「沖縄は全然変わっていませんよ」
県民を分ける米軍普天間飛行場辺野古移設問題。是非が焦点となる知事選まで、1カ月を切った。先月末には国連人種差別撤廃委員会が沖縄の住民の安全に懸念を示した。沖縄だけの問題ではないはずだ。本土の人間こそ耳を傾けたい「喰ぇー残さー」の声である。