(筆洗)蓄えた軍事力や工業力の誘惑に駆られて大国は - 東京新聞(2018年8月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018082302000160.html
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悪い行いはいつも邪悪な心のみによって引き起こされるとは限らない。オーストリア生まれで、二つの世界大戦に翻弄(ほんろう)された作家ツバイクは、なぜ第一次大戦が起きたかについて、参戦した国には<動機さえも見出しえない>としつつ、こんな見方を示す。
<力を持っているという感情は、つねに人間にも国家にも、その力を使用するか、もしくは濫用(らんよう)したいという気をおこさせるものである>(『昨日の世界』)。蓄えた軍事力や工業力の誘惑に駆られて大国はぶつかった。力は時に悪魔のささやきになる。そんな見方だろう。
大戦に例えるのは大げさだろうが、悪への誘いが身近にある時代の訪れを懸念してしまう。愛知県の男子大学生が高性能爆薬を製造したなどとして、爆発物取締罰則違反などの疑いで逮捕された。十九歳の若さにも実際に爆発させていたことにも驚く。
欧州でテロの道具になっているこの爆薬、ネットで製造方法を見られて、比較的簡単に作れるという。できるという思いが濫用の誘惑となったのではないか。
米国ではトランプ政権が、3Dプリンターで銃をつくる情報に関し、ネット上の公開を認め、裁判所が公開一時差し止めを命じる事態になった。
だれでもたやすく世界中の情報につながる時代だ。濫用の誘いに負ける人間は現れ続けるのではないか。その手の誘惑に人が弱いのは歴史にも例がある。