<つなぐ 戦後73年>核被害 89歳が問う 闘病ディレクター、世界回り番組制作 - 東京新聞(2018年7月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018072902000131.html
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現役最高齢のテレビディレクターといわれ、大阪を拠点に活動する鈴木昭典さん(89)が、日本と南太平洋の「ヒバクシャ」を追いかけたドキュメンタリー番組「核の記憶 89歳ジャーナリスト 最後の問い」が八月四日、BS12トゥエルビで放送される。構想から二年。鈴木さんは「人生最後の仕事」との覚悟で臨み、病と闘いながら各地で核被害の実態をリポートし、執念で完成させた。 (安藤美由紀)
鈴木さんは大阪生まれ。名古屋市の軍需工場で働いていた十六歳の時、終戦を迎えた。一九五六年、大阪テレビ放送(現朝日放送)に入社。昭和史を検証する番組を多く手がけた。退職後の八八年に「ドキュメンタリー工房」(大阪市)を設立。代表作に連合国軍総司令部(GHQ)関係者に取材を重ね、憲法の制定過程を追った「日本国憲法を生んだ密室の九日間」(九三年)がある。
今回の企画が浮上したのは二〇一六年。広島市に原爆が投下された八月六日に毎年、ニュージーランドで追悼集会「ヒロシマ・デー」が開かれていると聞いたことだった。日本から遠く離れた南半球で、なぜ原爆の犠牲者を追悼するのか。「足でネタをつかむ」のが信条の鈴木さんは、自分の目で確かめるため同年八月、真冬の現地へ飛んだ。
集会は、世界の核廃絶運動のリーダーであるケイト・デュースさんが主宰。鈴木さんはデュースさんらの取材を通じ、第二次世界大戦後に英国の核実験でニュージーランドの退役軍人らが被ばくしたことを知った。影響は子や孫の代にも及び、染色体異常やがんなどの健康被害で苦しんでいる事実に衝撃を受けた。
現地で感じたのは「(核被害は)過去ではなく今の話だ」ということ。高齢の身でやりきれるのか不安を感じながらも、番組をつくる決意をした。
一七年三月にはニュージーランドと、フランスが九〇年代まで環礁で核実験を行っていた同国領ポリネシアタヒチを訪問。実験に携わった地元の人たちが、フランス政府から危険性の説明を十分に受けないまま従事させられたり、汚染の恐れがある魚や雨水を摂取し、がんを発症した実態を知る。「もう一つのヒロシマだ」と確信した。
帰国後、自身にもがんが見つかった。年齢的に手術はできなかったが、主治医から「進行が遅いので二年は大丈夫」との診断を得て広島を取材。被爆者の多くはがんで他界し、存命の人もがんで苦しんでいる姿を見た。足腰の病気も患い長崎市には行けなかったが、工房スタッフが取材を続けて完成にこぎ着けた。
番組では、こうした取材内容を克明に報告。鈴木さんは「戦争体験者として、世界のヒバクシャの現状を伝えなくては、との思いでつくった。ぜひ見てほしい」と話している。
番組の放送時間は八月四日午後七時〜八時十分。

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アジアや太平洋で多くの命を奪い、日本各地が焦土と化した戦争が終わってから間もなく七十三年。風化してしまいそうな過酷な記憶、平和を守り続けようという思いを未来へつなぐ。