死刑執行されたオウム事件 政府の手で報告書作成を - 毎日新聞(2018年7月27日) 

https://mainichi.jp/articles/20180727/ddm/005/070/030000c
http://archive.today/2018.07.26-204345/https://mainichi.jp/articles/20180727/ddm/005/070/030000c

地下鉄サリン事件などに関わったオウム真理教元幹部ら死刑囚6人の刑がきのう執行された。これで松本智津夫麻原彰晃)元死刑囚を含む全員の刑の執行が全て終わった。
刑の執行で事件を風化させてはならない。一宗教団体が国家転覆をもくろみ、サリンを使った化学テロを実行した。なぜ、これほど大きなテロが企てられ実行されたのか。その疑問は完全には解消されていない。
そもそも事件には未解明の部分が多く残されている。教団に対する捜査を指揮していた警察庁長官の銃撃事件は、教団信徒だった元巡査長らが逮捕されたが、不起訴となり時効が成立した。こうした捜査の不手際などは十分に検証されていない。
地下鉄サリン事件をはじめ、個々の事件については刑事裁判の場で真相の解明が図られた。だが、法廷に提出される証拠は限られる。裁判記録を積み重ねても事件の全体像を描くのは難しい。
警察や検察、公安調査庁、さらには地下鉄サリン事件の被害現場に入った自衛隊などさまざまな機関が独自に情報を収集しているはずだが、これまでほとんど表に出ていない。
一連のオウム事件は、死者27人、負傷者6000人以上を数えた未曽有の犯罪だ。政府の手で全ての記録を集約し、後世に教訓として残すための報告書を作成する必要がある。営団地下鉄(現東京メトロ)など民間の記録もあれば、それらを含め文献として残すべきだ。
たとえば、地下鉄サリン事件については7年前、米国のシンクタンクが報告書を作成している。オウム真理教がいかにして生物・化学兵器を開発したかをテーマにしたものだ。
元海軍長官を含む執筆者らが今回刑が執行された死刑囚らと20回以上面会し、オウム真理教が失敗を繰り返しながら化学兵器を手にした背景を詳細に分析し公開した。
2年後の東京五輪パラリンピックではテロへの備えが最大の課題になる。テロ対策に事件の教訓を生かすためにも、こうした取り組みが求められる。
短期間に13人もの死刑を執行した例はこれまでにない。今回の執行はどのような議論を経て具体的な手続きが決まったのか。こうした内容も報告書に盛り込むべきだ。