学ぶ権利の保障 多様な性に広げる意義 - 東京新聞(2018年7月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018071602000144.html
http://archive.today/2018.07.17-001531/https://www.asahi.com/articles/DA3S13590143.html

体の性と心の性が一致しないトランスジェンダーの学生に入学を認めようとする動きが女子大学に広がっている。性的少数者の学ぶ権利を重視し、女性を広い解釈でとらえた点で意義がある。
お茶の水女子大は二〇二〇年四月から、従来「戸籍上の女子」に限っていた出願資格を変更。戸籍上の性が男性でも自身を女性と認識しているトランスジェンダーの学生を受け入れると発表した。
お茶の水大と歩調を合わせるように、同じく国立の奈良女子、私立の津田塾、日本女子、東京女子の四大学が同様に入学資格変更を検討。米国の複数の女子大ではすでにトランスジェンダーの学生の入学を認めている。
こうした動きの背景にあるのは、性的少数者に対する、社会的な認知の広がりだ。文部科学省は一五年、医学的知見から心と体の性が一致しない性同一性障害の児童生徒について、制服やトイレ使用など学校生活での配慮を各教育委員会に求めた。
さらに後押ししたのは、日本学術会議が昨秋、性的少数者の権利保障について述べた提言だ。子どもたちが自分の性をどう認識していても安全な環境で学ぶ権利は守られるべきだとし、女性と自認している人が女子校や女子大に進学できないなら「学ぶ権利の侵害」と指摘。これは決定打だった。お茶の水大にも一五年からトランスジェンダーの入学希望の問い合わせがあり、資格変更を決断した。
日本の女子大は、学問の門戸を閉ざされた女性に学ぶ機会を提供するため明治期に生まれた。少子化の中で共学へと移行する大学もある中で、お茶の水大は社会的につくられる性別を意味する「ジェンダー」の研究拠点でもあり、女子大としての存続を模索する。
入学資格の変更によって、トランスジェンダーの希望者がどれほど現れるのかは未知数だ。だが性のあり方は多様だと、その尊重に気づかせる契機になるだろう。
一方で課題が残る。出願資格を「戸籍または性自認が女子」に変更するものの認定をどのように行うのか。トイレなどの施設も当事者を特別に扱って逆に差別や偏見を招かないか。人権やプライバシーに十分な配慮を求めたい。
性的少数者をめぐっては、同性カップルを公的にパートナーとして認める制度を導入したり、窓口業務を担当する職員の研修に取り組む自治体も増えつつある。性のありようは一人一人が違うのだという理解をさらに深めたい。