<北欧に見る「働く」とは>(6) 国民が安心できてこそ - 東京新聞(2018年7月2日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018070202000147.html
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北欧二カ国を見て強く感じるのは、危機意識を持ち将来を見通し対策を練る姿勢だ。当たり前のようだが、先送りはしない。
スウェーデン職業訓練は絶えず改善が加えられている。フィンランドの社会実験は導入するか分からない制度の検証に国の予算を投じている。
企業側ではなく働く側に立つ視点を忘れていない。国民が意欲を持って働けてこそ国が成り立つと考えている。経済界が求める高度プロフェッショナル制度を創設させた日本政府とは姿勢が違うのではないか。国の大小は関係ない。学びたいところだ。
日本ではどうすべきだろうか。
日本の働き方の特徴は終身雇用制度だ。これを大切にしながら、能力を生かすために転職したい人や、正社員になりたい非正規社員がそうなれるような職業訓練や教育の機会は増やすべきだ。
今、支援が必要なのは、低収入で雇用が不安定な非正規社員と、個人で事業をする人たちだ。
非正規は雇用されていても職場の健康保険や厚生年金に加入できないなど法制度の「保護の網」は限定されている。確かに企業の負担にかかわる。それでも網の拡大や正社員化は国の将来を見ればもっと進めるべきだろう。
生活保護制度は収入があると利用しにくい。フィンランドのように働いても低収入なら、それを補う給付制度は検討に値する。
日本では非正規の増加で格差拡大は最大の課題となっている。富の再配分の見直しを通して是正する必要がある。スウェーデンは再就職による安定した賃金確保で、フィンランドは低収入を補う社会保障の給付で格差をなくそうとしている。
日本でも人工知能(AI)の進展などで個人で事業を始めたり起業する人が増えそうである。だが、「保護の網」は雇用される人が対象でこうした人はそこから漏れる。働き過ぎの防止や、最低賃金の保証、失業給付、労働災害の補償などがない。働き方が多様化している以上、それに対応した制度の改善に取り組まねばならない。
日常生活や将来に安心できてこそ働き続けられる。人の幸福の原点でもある。 (鈴木穣)

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