「働き方改革」法が成立 健康と生活を守るために - 毎日新聞(2018年6月30日)

https://mainichi.jp/articles/20180630/ddm/005/070/152000c
http://archive.today/2018.06.30-000841/https://mainichi.jp/articles/20180630/ddm/005/070/152000c

安倍政権が今国会の目玉としていた働き方改革関連法が成立した。
過労死の根絶を求める声が高まるなど、雇用の状況や人々の価値観が大きく変わる中での制度改革だ。時代に合わせて、多様な働き方を実現していかねばならない。
関連法は三つの柱から成り立っている。残業時間規制、同一労働同一賃金の実現、高度プロフェッショナル制度高プロ)の導入である。
残業時間については労働基準法が制定されて初めて上限規制が罰則付きで定められた。「原則月45時間かつ年360時間」「繁忙期などは月100時間未満」という内容だ。
過労死ラインは月80時間とされており、規制の甘さも指摘されるが、現行法では労使協定を結べば青天井で残業が認められている。長時間労働が疑われる会社に関する厚生労働省の調査では、月80時間を超える残業が確認された会社は2割に上り、200時間を超える会社もある。
甘いとはいえ残業時間の上限を法律で明記した意義は大きい。

労基署は監督の強化
日本の非正規社員の賃金は正社員の6割程度にとどめられており、欧州各国の8割程度に比べて著しく低い。このため「同一労働同一賃金」を導入し、非正規社員の賃上げなど処遇改善を図ることになった。
具体的な内容は厚労省が作成する指針に基づいて労使交渉で決められる。若年層の低賃金は結婚や出産を控える原因にもなっている。少子化対策の面からも非正規社員の賃上げには期待が大きい。抜け道を許さないための厳しい指針が必要だ。
これらの改革を着実に実行するには、公的機関による監視や指導が不可欠だ。2015年に東京と大阪の労働局に「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」が新設された。検察庁へ送検する権限を持つ特別司法警察職員だが、現在は計15人しかいない。これでは全国の会社に目を光らせることなどできないだろう。
労働基準監督署による指導だけでなく、労働組合のチェック機能の向上、会社の取り組みに関する情報公開の徹底などが求められる。
最も賛否が分かれたのは高プロの導入だ。年収1075万円以上の専門職を残業規制から外し、成果に応じた賃金とする制度である。本人が希望すれば対象から外れることになったが、上司との力関係で、高プロ適用を拒否できる人がどれほどいるのか疑問が残る。
残業代を払わずに長時間労働をさせられる社員を増やしたい経営者側の意向を受けて、安倍政権が関連法に盛り込んだものだ。対象の職種や年収の基準を法律で規定することも一時は検討されたが、省令で決められることになった。
これでは、なし崩し的に対象が広げられる恐れがある。長時間の残業を強いられると過労死した人の遺族が懸念するのはよく分かる。経営側の利益のために制度が乱用されないよう、監視を強めるべきだ。

多様な労働実現しよう
一方、働く側からは柔軟な働き方を求める声が高まっている。介護や育児をしながら働く人は増え、地域での活動や副業、趣味などにもっと時間をかけたい人も多いはずだ。
求められるのは、コスト削減のための制度ではなく、働く人が自分で労働時間や働き方を決められるような制度である。
時代とともに単純労働は減り、付加価値の高い仕事が増えている。もともと創造的な仕事は労働時間で賃金を決めることが難しい。特に専門性の高い仕事をしている高収入の社員は、経営者に対してもっと発言力を持てるようにすべきだ。
企業にとっては、労働時間が減り、非正規社員の賃金が上がることで生産性の向上を迫られることになる。長時間労働につながる職場の無駄を見直すことから始め、人工知能(AI)やロボット、ITによって省力化できるものは進めていかねばならない。設備投資の余力のない中小企業への支援策も必要だ。
政府は今後、自宅での勤務を認めるテレワークなどについても検討する予定だ。今回の改革は初めの一歩に過ぎない。

労使ともに意識を変える時だ。
柔軟な働き方を広げていくには、時代のニーズに合った知識やスキルを個々の労働者が身につけられるよう、大学など高等教育や公的職業訓練を充実させないといけない。中高年の労働者も含めて、社会全体でバックアップしていくべきである。