残業代ゼロ 範囲拡大の恐れ 働き方法案 参院委可決 - 東京新聞(2018年6月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201806/CK2018062902000151.html
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安倍政権が今国会の最重要課題に位置付ける「働き方」関連法案は二十八日夜の参院厚生労働委員会で、与党などの賛成多数で可決された。国民民主、立憲民主、共産などの野党は反対した。参院議院運営委員会は理事会で、働き方法案を採決する本会議を二十九日午前に開く日程を決定。本会議で可決、成立する方向となった。
法案採決前の討論で、与党は「成立すれば柔軟な働き方が可能となる」と主張。野党は高収入の一部専門職を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度高プロ、残業代ゼロ制度)」について「長時間労働を拡大し過労死を促進する」(共産の倉林明子氏)として削除すべきだと訴えた。
国民の浜口誠氏は「経営者のニーズが最優先され、労働者不在の議論だった」と指摘し、立民の難波奨二氏は「会期を延長した以上、まだまだ審議できる」と述べた。
厚労委の採決に先立ち、立民、共産などの野党は島村大委員長(自民)の解任決議案を提出。参院議院運営委員会は決議案を本会議で取り扱わないと決めた。
国民は与党などと高プロをはじめ各制度の詳細に関し労働政策審議会厚労相の諮問機関)で慎重な議論を求める付帯決議を共同提出した。与党、国民、立民などの賛成多数で可決された。


働き方関連法案の審議で浮かんだ懸念は、条文に明記せず省令で定める事項が計六十二項目に上る点だ。高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度高プロ、残業代ゼロ制度)」の年収要件や対象業務の詳細も省令で規定することになっており、法改正を経ずに、なし崩しに適用範囲が拡大しかねない。
政府は高プロの対象者について、高い専門性を持ち経営者との交渉力がある人に限定したと強調。年収の想定は千七十五万円以上と説明するが、法案には「年間平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準」と書いてあるだけ。具体的には法成立後、労働政策審議会厚労相の諮問機関)で議論し、省令で決める。
「相当程度」を低く見積もることは可能だし、一般労働者の平均年収が下がれば高プロの年収要件も引き下げられる恐れがある。
対象業種も同様だ。政府は(1)金融商品の開発業務(2)金融ディーラー(3)アナリスト(4)コンサルタント(5)研究開発職−を例示するが、具体的には労政審で決める。労政審で経営側の委員が対象拡大を求め、広がることもあり得る。
さらに、法案は、高プロを適用された人が出退勤時間や仕事の進め方を自由に決められる裁量について、何も書いていない。これも省令で定める事項だ。
高プロと同様に長時間労働の懸念が指摘される裁量労働制さえ、労働基準法で「業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる」と明記している。高プロで働く人に十分な裁量が認められる保証はない。
省令任せの実態に、参院厚労委の審議では野党側から「白紙委任だ」(共産党倉林明子氏)との批判が上がった。 (木谷孝洋)