防衛費2%提言 「専守」を超える危うさ - 東京新聞(2018年6月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018060802000182.html
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防衛予算を北大西洋条約機構NATO)が目標とする「国内総生産(GDP)の2%」にまで増やせば、現行のほぼ倍増だ。自民党の提言は、「専守防衛」の枠を超える危うさを秘めている。
提言は自民党の安全保障調査会と国防部会がまとめ、安倍晋三首相ら政府側に提出した。年内に予定される「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」見直しに党の意見を反映させる狙いだ。
二〇一三年十二月に決定した現行中期防は一四年度から五年間の防衛費の総額を一三年価格で二十三兆九千七百億円程度と定めている。年平均四兆八千億円程度、GDPとの比較では毎年1%未満だ。
ところが提言は「NATOが防衛費の対GDP比2%達成を目標としていることも参考にしつつ」必要かつ十分な予算の確保を求めた。「戦後最大の危機的情勢」下で、国民の命と領土などを守り抜く体制構築のためだという。
防衛費は政権復帰した首相の下で編成した一三年度以降、六年連続で増額、過去最大の更新も四年続く。「GDPの1%以内に防衛費を抑える考え方はない」と明言する首相の路線を後押しする狙いが提言にはあるのだろうが、防衛費倍増はいかにも行き過ぎだ。
政府は戦争放棄と戦力不保持の憲法九条の下、必要最小限度の実力組織として自衛隊の保持に至るも専守防衛政策を堅持してきた。
三木内閣が一九七六年に決めた防衛費を国民総生産(GNP)比1%以内とする枠は、中曽根内閣が八七年度予算から撤廃したが、その後も防衛費はおおむねGDP比1%程度を維持している。
GDP比1%は、日本が専守防衛に徹するという国際的なメッセージだ。2%を参考にすると言い出せば、再び軍事大国化の意思ありと疑われても仕方があるまい。
提言には「多用途運用母艦」とこれに搭載するF35BなどSTOVL(短距離離陸垂直着陸機)の導入も盛り込んだ。事実上の空母導入構想だ。「敵基地反撃能力」の必要性を訴え、長射程ミサイルの整備にも言及した。
いずれも専守防衛を超える恐れがあるとして政府が導入を控えてきたものだ。国際情勢悪化を理由に一気に進めていいわけがない。
そもそも提言は外交努力の視点に乏しい。財政状況も厳しい中、大盤振る舞いに国民の理解が得られるのか。軍事費を聖域として戦争に突き進んだ「いつか来た道」を、再び歩み出してはならない。